電子投票、どう導入する?条例制定から開票まで、宮崎県新富町の実践に学ぶ

電子投票の導入を検討しているものの、何から手を付ければよいか、住民や職員の不安にどう対応するのか――そんな課題に直面している担当職員の方もいるのではないでしょうか。

宮崎県新富町では2026年3月投開票の選挙にタブレット端末を用いた電子投票を導入しました。当日に向けて選挙事務のロールプレイング研修から住民へのデモ体験まで、丁寧に準備を進め、速やかな投開票につなげました。

新富町が導入した電子投票システムは、デジタル庁が運営する「RegTechコミュニティ」にて関係者の連携から生まれた取組の一つです。「RegTechコミュニティ」では、技術を活用したアナログ規制の見直しを推進するため、関係府省庁や地方公共団体、企業などが「直接対話型」で意見交換や情報共有ができる場を提供しています。

今回のデジタル庁ニュースでは新富町の担当職員に、電子投票システム導入の経緯や準備の過程、当日の運営体制を聞きました。文末ではデジタル庁の取組も紹介します。

(※記事内容は取材当時の情報に基づきます)

<目次>

電子投票システムの仕組みとは:記入・投函・集計をデジタル化

仕切りで囲まれた記載台に、黒いフレームのタブレット型電子投票端末が設置されている。画面には「【投票を開始】を押してください」のメッセージと投票箱のアイコン、青いボタン「投票を開始」が表示されている。スタイラスペンを持ち、画面を操作しようとしている手元が写っている。端末の手前にはペン立てが置かれている。背景の上部には候補者名が書かれた掲示の一部が見える。
(電子投票システムの画面(※デモンストレーションです))

電子投票は地方公共団体の選挙を対象に、条例により実施できます。2002年に岡山県新見市の選挙を皮切りに導入が始まりましたが、2016年の青森県六戸町での選挙を最後に、電子投票システムの開発は一時中断。開発企業の採算性の問題やシステムトラブルなどが背景にありました。

その後、総務省は2020年に電子投票システムの技術的条件を改定。電子投票に用いる端末について、従来の専用機に加えて汎用機(タブレット端末)の活用を可能としました。

改定後の技術的条件への適合確認を受けたシステムが、2024年12月に大阪府四條畷市での選挙に初めて導入されました。

電子投票では、記載台での投票用紙への記入と投票用紙の投函が電子化し、開票は手作業での集計から自動集計に変わります。選挙の公平性や機密性を担保するため、電子投票システムには以下のような条件が求められています。

【電磁的記録式投票機が具備すべき条件について】
○電磁的記録式投票機は、次に掲げる条件を具備したものでなければならない。
① 選挙人が一の選挙において二以上の投票を行うことを防止できるものであること。
② 投票の秘密が侵されないものであること。
③ 電磁的記録媒体に記録する前に、選択した候補者の氏名を電磁的記録式投票機の表示により選挙人が確認することができるものであること。
④ 電磁的記録式投票機の操作により候補者のいずれを選択したかを電磁的記録媒体に確実に記録することができるものであること。
⑤ 予想される事故に対して、電磁的記録媒体の記録を保護するために必要な措置が講じられているものであること。
⑥ 電磁的記録媒体が電磁的記録式投票機から取り出せるものであること。
⑦ 権限を有しないものが電磁的記録式投票機の管理に係る操作をすることを防止できるものであること。
⑧ ①から⑦までのほか、選挙の公正かつ適正な執行を害しないものであること
○電磁的記録式投票機は、電気通信回線に接続してはならない。
(総務省選挙部「電子投票システムに関する技術的条件及び解説」より)(※外部リンク)

こうした条件を踏まえ、電子投票システムはセキュリティに配慮した仕組みを採用しています。投票完了後はタブレット端末が自動でロックされる仕組みで、二重投票を防止。選挙事務従事者は投票者ごとに端末の解除操作を担います。投票データの二重化や暗号化によって重複集計を防ぐとともに、投票者の特定もできない仕組みです。

四條畷市や新富町が採用したシステムを開発した京セラは、四條畷市での実績を踏まえ、システムを更改しています。集計速度の向上に向けてアルゴリズムを改善。例えば、USBメモリ1本あたり500票の投票データを格納し、7ポートあるUSBハブを使ってUSBメモリ20本分(1万票)を集計すると仮定したシミュレーションでは、PC1台を用いて約2分40秒で集計を完了しました。

また、タブレット端末の台数削減のため、端末1台で最大4つの選挙に対応可能としました。

今後は視覚障害者が投票できるよう、音声読み上げ機能を追加するなどアップデートを検討。移動式投票所での電子投票の実現に向けても、総務省と連携して取組を進めています。

今回の電子投票システムは、四條畷市から相談を受けたデジタル庁が「RegTechコミュニティ」を通じて呼びかけたところ、複数社が応じ、最終的に製品化に至っています。

RegTechコミュニティは、技術を活用したアナログ規制の見直しを推進するため、デジタル庁がSlack上で運営するオンラインコミュニティです。関係府省庁や地方公共団体、企業などが「直接対話型」で意見交換や情報共有ができる場として活用されています。

若年層の投票率低迷、高齢者の負担:新富町が電子投票導入に踏み切った理由

灰白色の庁舎が正面に映っている。手前右側に「新富町役場 Shintomi town」という字が写っている。庁舎正面には縦型の懸垂幕が掲げられ、庁舎のエントランス上部には町のシンボルマークが掲示されている。
(新富町役場)

宮崎県新富町では若年層の投票率の低迷という課題に直面。啓発活動や広報施策などを重ねてきたものの、20代・30代の投票率が30%台を下回る状況が続いていました。

投票率の向上策を相談していた県の選挙管理委員会の担当者から電子投票活用の提案があり、2025年1月ごろから検討を始めました。新富町総務課(選挙管理委員会)の吉野雄太主査は、当時をこう振り返ります。

「若年層にとっては紙よりタブレット端末の方がより親しみがあるのではないか、新富町が抱える課題解決につながるのではないかと考えました」(吉野主査)

新富町総務課の吉野主査(※所属・職名などは取材時のもの)がテーブルに手を組んで着席しながら話している様子。
(新富町総務課の吉野主査(※所属・職名などは取材時のものです))

検討を進める中で、電子投票システムの導入は若年層だけでなく有権者全体の利便性向上につながるとの判断に至りました。

吉野主査は次のように話します。

「ご高齢の方も多く、手元が震えて文字をうまく書けないことで、候補者名を記入するのに時間がかかる方もいらっしゃいます。足が不自由で杖をついている方や小さなお子さんを抱えている保護者にとっては、立ったまま記載台で記入するのも大きな負担です。過去には、文字が書けないから選挙に行きたくないという声もいただいたことがあります」(吉野主査)

投票用紙への記入内容が判読できずに無効票となるケースも少なくありません。約1万3,000人の有権者のうち、およそ6,000~7,000人が投票し、多ければそのうち300票ほどが無効票となっています。

無効票には白票も含まれますが、吉野主査は 「開票作業に当たった職員からは記入内容を判読できない事例を度々聞きます」 と説明します。

こうした現状も後押しとなり、町選管は電子投票システムの導入に向けた調整を本格化。まず町長に導入を相談し、快諾を得ました。2025年7月には、予算が付いていない新規事業を庁内で検討する「政策会議」に諮り、電子投票のメリットとデメリットを説明。デジタル機器やサービスに不慣れな町民への対応に関する指摘があり、町選管は町民向けの広報施策の実施を通じて解消すると応じました。この会議を経て、電子投票の実施に向けた庁内の合意が得られました。

2025年9月議会では、町が実施する選挙(町長選挙と町議会議員選挙)をすべて電子投票とする条例案と、システム導入にかかる経費の予算案がともに可決。2026年3月1日投開票の選挙(町議会議員補欠選挙)での導入に向けて、準備が本格的に動き出しました。町選管4人のうち、吉野主査と総務課行政係の甲斐信吾係長の二人がコアメンバーとなり、準備を進めました。

新富町総務課の吉野主査(左)と甲斐係長(右)が会議室の木目調テーブルに着席して話している様子。
(新富町総務課の吉野主査(左)と甲斐係長(右))

職員の不安、どう解消?ロールプレイで磨いた投開票の実務

電子投票という新しい取組にあたり、選挙事務に従事する職員の不安解消も重要な課題でした。町選管は京セラの協力を得ながら、通常の事務従事者説明会に加えて、電子投票に特化した説明会を複数回開催しています。

初回は必修とし、タブレット端末の操作方法など基本的な内容を扱う座学を実施。2回目以降は任意参加の実践形式とし、投票者役と事務従事者役に分かれて投開票日のロールプレイを重ねました。

研修を通じて見えてきた課題は、その都度事務フローに反映しています。例えば、タブレット端末は当初平置きにしていましたが、身長によっては画面が見えづらいとの意見を受けて、角度を付けた設置に変更しました。

また、指紋が画面に付着すると都度拭き取る手間が生じるため、タッチペンの使用を推奨しています。ただし予行演習では指で操作する人が相次いだため、タッチペンをタブレット端末の正面に配置するよう改めました。投票所ごとの職員配置数も、この研修を通じて最適化しています。

研修会は1回ごとに3枠ずつ設けて3~4回開催し、延べ70人ほどが参加しました。

住民の不安、どう解消?デモ体験と広報で理解を広げる

町選管は町が主催するイベントやお祭りにブースを出展し、電子投票システムのデモ機を持ち込みました。家族連れなど幅広い年齢層の町民に実際に体験してもらうとともに、町の集会所で開かれる健康体操にも出向き、高齢者にデモ機を触ってもらいながら操作方法を説明しました。

「タブレット」という言葉に馴染みのない高齢者が敬遠しないよう、言葉の使い方にも工夫しました。吉野主査は 「タブレットという言葉は使わず、『画面を触って操作する機械』と説明しました」 と話し、体験者からは「とても簡単だ」「今後は全部これが良い」といった反応が得られたと振り返ります。

2025年11月から2026年1月までの3か月間は町の広報誌でも電子投票を継続的に取り上げ、操作の簡易性やデモ体験を通じて得られた町民の声を紹介しました。

投開票当日の運営体制と結果:電子投票は22分で開票完了、満足度は9割

記載台に、候補者氏名等掲示の用紙が貼られている。テスト・実証実験用のダミーデータ。タイトルは「テスト町長選挙 候補者氏名等掲示 新富町選挙管理委員会」。表は5列構成で、一番右に「党名(ふりがな)」「氏名(ふりがな)」と書かれている。左から「無所属 京セラ 花子」「無所属 京セラ 太郎」、「無所属 新富 花子」「無所属 新富 太郎」と記載されている。
(タブレット端末を設置した記載台の、候補者氏名等掲示(※ダミーです))

こうして迎えた町議会議員補欠選挙の投開票日。当日は投票所ごとに従来の記載台と同数のタブレット端末を設置。操作方法を説明した資料も掲示し、分かりやすさに配慮しました。

現場の役割分担も見直しました。従来の受付係、名簿対照係、投票用紙交付係の三役は受付係、説明係、タブレット操作係に再編。受付係は電子投票を実施している旨をアナウンスし、説明係はタブレット端末付近で操作案内をする形で会場の動線を整理しました。

タブレット操作係は二重投票防止のため、端末の解除やロック操作に専念。アクシデントに備え、投票事務に従事する職員が町選管にすぐに相談できる体制も整えました。

吉野主査は 「抵抗感のある方もいらっしゃいましたが、投票を終えてからは良い反応を得られました。投票時間がとても短くなり、投票に来た町民の皆さんも『あれ、もう終わり?』『もう帰っていいの?』と驚いていました」 と話します。

京セラが投票者約260人に実施したアンケートでは、「とても満足」「満足」と答えた人が9割を超えました。操作が分かりやすいとの回答も96%に達しました。回答者の6割以上が60代以上であり、懸念されていた、デジタル機器やサービスに不慣れな住民への対応という点でも手応えが得られました。

18時の投票締切後、開票は19時にスタート。選挙管理委員会とデジタル担当課の職員11人が担当しました。 投開票日と期日前の電子投票分の開票は22分で完了 。紙による不在者投票との合算を終えて、19時42分に確定報を出しました。

今回は町議会議員補欠選挙(被選挙数1)であり、過去に同様の選挙実績がないため 「単純には比較できない」(吉野主査) ものの、これまで50~60人で担当していた開票作業を大幅に少ない人数で速やかに開票を終えることができました。

一方で、電子投票では従来の紙での投票にはなかった手順が生じます。町内14か所の投票所ではタブレット端末から投票データを格納したUSBメモリとSDカードを抜き取り、輸送ケースに収める作業が必要です。

不正操作を防ぐためにタブレット端末は鍵付きの金属ケースで保護しており、これを開錠してUSBメモリとSDカードを回収します。集計用PCはネットワークに接続しないスタンドアローン方式を採用しており、ここにUSBメモリを挿して集計します。

銀色のアルミ製ハードケースが2台置かれている。いずれも蓋が開いており、内側は黒いスポンジ素材で保護されている。左のケースには黒いケースと青色のキータグが収納されている。右のケースには薄型のハードケースと、青い封印シール、橙色のキータグが収納されている。
(投票データの輸送ケース。USBメモリとSDカードを収めた輸送ケースは封印した後に開票所に持参する。投票データはUSBメモリとSDカードに二重保存し、USBメモリを原本、SDカードを複写とする運用)

開票の開始に間に合うか不安もあったため、投票管理者のロールプレイも重ねました。また、マニュアルとは別に、タブレット端末の起動方法と投票締切後の操作方法をまとめたショート動画を作成して事前に庁内イントラで共有。動画ではタブレット端末からUSBメモリとSDカードを取り出す方法も解説しました。甲斐係長は投開票日をこう振り返ります。

「USBの差し込みが甘くデータを取り込めないという小さな手違いはあったものの、基本的にはスムーズに終えることができました」(甲斐係長)

今後の展望:適用選挙の拡大と行政デジタル化に向けて

吉野主査(左)と甲斐係長が、タブレット端末が置かれた記載台を挟んで立っている。
(吉野主査(左)と甲斐係長。中央にはタブレット端末が置かれている)

新富町では今後、投票事務のさらなる効率化も視野に入れています。

吉野主査は 「今回は初回でもあり、事務従事者やタブレット端末の台数を多めに配置しました。次回以降は最適な数で臨みたいです」 と話します。公示段階では町長選挙と町議会議員補欠選挙を実施する可能性があり、2つの選挙を想定して配置人数や台数を確保した背景もあります。

現状、新富町で電子投票を適用できるのは町長選挙と町議会議員選挙に限られます。コストの観点からも適用できる選挙の種類を増やしたいと考えており、吉野主査と甲斐係長は県知事選挙や県議会議員選挙への導入を宮崎県に働きかけたい意向です。

県の選挙でも電子投票が導入されれば、新富町の有権者が接するあらゆる選挙で電子投票を経験できるようになります。吉野主査は、町単独の広報活動よりもはるかに効果的に電子投票が浸透していくと期待しています。

甲斐係長は、2027年4月に予定される統一地方選挙までに電子投票への一本化が実現するのが理想だと話し、宮崎県に前向きな検討を求めています。

新富町は電子投票をきっかけに行政のデジタル化を加速させたい考えです。文書管理システムの電子化などを念頭に庁内システムの整備を進め、将来的には窓口の電子申請にもつなげていく方針です。住民の利便性向上のため、新富町のデジタル活用は続きます。

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RegTech(レグテック)」を表すワードマーク。ネイビーブルーの太字「R・e・g・t・e・c・h」が、縦方向に積み重なりながら互いに重複・交差するタイポグラフィで構成されている。文字は均一に並ぶのではなく、それぞれ異なる位置・角度でレイアウトされている。
(RegTechコミュニティのロゴマーク)

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