要介護認定事務の効率化はこう進める:郡山市に学ぶ、業務の棚卸しからAI導入まで
- 公開日:
デジタル庁では各府省庁と連携して、目視確認や書面対応を求める「アナログ規制」を見直し、デジタル技術を活用できる環境整備を進めています。厚生労働省もまた、高齢化率の上昇に伴う要介護認定事務の事務作業の負担増などを課題と捉え、精力的に見直しを推進してきました。
こうしたアナログ規制見直しの機運は地方公共団体にも波及し、行政のデジタル化が進んでいます。今回は、アナログ規制の見直しに早期に着手した福島県郡山市での先進事例を紹介。郡山市では、公的介護サービスを受けるために必要な要介護認定の事務作業にデジタル技術を活用して、事務効率化を図っています。
行政現場の大きな負担となっていた要介護認定事務をどのように効率化したのか。郡山市の担当職員に、具体的な対応策や業務改善のヒントを聞きました。
<目次>
デジタル化で事務処理日数を10日短縮、超過勤務も3分の1へ

(図1:郡山市の要介護認定者数の推移と将来推計/同市の資料をもとにデジタル庁ニュースで作成)
「要介護認定」 (※1) では、全国の市区町村が調査から審査・判定に至る一連の事務手続を担っています。高齢者人口の増加に伴い、要介護(要支援)認定を必要とする方の数は増加しており、市区町村の事務手続負担が重くなっています。
(※1)要介護認定
介護保険制度において利用者に適切な介護サービスを提供するため、その人への介護の手間を客観的に判断する制度。具体的には、寝たきりや認知症などで常時介護を必要とする「要介護状態」か、家事などの支援によって状態の維持・改善が見込める「要支援状態」か、などを調査。その結果に基づき、「要支援1」から「要介護5」までの区分に分けて判定する。
郡山市の申請件数は2018年度の1万4,969件から、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2020年度に9,929件と一時的に減少したものの、その後、2022年度に1万8,524件、2023年度は1万7,261件となりました。要介護(要支援)認定者数は2023年度に1万6,461人となり、市推計人口の5%を占めています。
そのため、郡山市は二つの課題に直面しました。一つは要介護認定の申請から判定までの所要時間の長期化。もう一つは担当職員の労働時間の増加です。
国が定める標準処理期間は、申請から判定まで「30日」ですが、郡山市では2018年度の平均処理日数が「45.1日」でした。そこで、デジタル技術を活用した業務効率化を実施したところ、2021年度の平均処理日数は「35.7日」となり、約10日間短縮しました。
(※なお、コロナ禍の影響により申請件数が一時的に減少し、その後増加したことから、2023年度と2024年度の平均処理日数はそれぞれ53.1日、49.9日となっています)

(図2:郡山市での要介護認定申請件数と処理日数/同市の資料をもとに、デジタル庁ニュースで作成)
また、担当職員の超過勤務時間は2018年度時点で平均「約43時間」と、市職員全体に比べて約4倍となっていました。それがデジタル化後は減少に転じ、2021年度に「13時間」、2022年度に「16時間」、2023年度に「13時間」となるなど、超過勤務時間の削減が実現しつつあります。

(図3:デジタル化前後の月平均超過勤務時間の比較/郡山市の資料をもとに、デジタル庁ニュースで作成)
「現在の技術では不可能」を覆す。現場発案が全国初のシステム製品化

(認定調査票の内容を確認する郡山市役所職員/撮影:デジタル庁ニュース)
郡山市は「デジタル市役所推進計画」(2018年策定)に基づき、デジタル化に取り組んできました。2022年3月には「DX郡山推進計画」を策定して取組を加速させ、2022年度からは、国のアナログ規制見直しも追い風となり、人工知能(AI)などデジタル技術を活用した業務効率化を本格的に開始しました。
市の介護保険課は、こうした動きに先駆けて2018~2019年頃からデジタル技術を活用した業務効率化に着手しました。その推進力の一つが、2018年に介護保険課認定係の係長に着任した当時の職員(以下、元係長)による積極的な提案と企画でした。
元係長は、要介護認定の処理の長さと職員の超過勤務時間について改善の必要性を感じ、急速に進化するデジタル技術に着目。要介護者の状態や本人・家族からの聞き取り内容を記入する「認定調査票」の確認作業について、従来の目視確認ではなく「AIで自動化できないか」と発案しました。
デジタル化の推進には事業者の協力も大きな力となりました。元係長は認定調査票の確認作業の自動化について複数の企業に相談しましたが、大半から「現在の技術では実現不可能」と断られました。しかし、大手システムベンダーの子会社とは協議を続け、2019年12月から約半年の実証実験を実施。2021年3月、郡山市発案のAIシステムが製品化され、全国初の実装に成功しました。
デジタル化の第一歩は「業務の棚卸し」:四つのフェーズに整理して推進

(郡山市介護保険課の佐藤主任/撮影:デジタル庁)
業務のデジタル化にあたっては、システム導入だけでなく、課の職員の意識改革やスキルアップも並行して進めました。
市介護保険課の佐藤和登主任は、 「デジタル化は一朝一夕に実現するものではなく、継続的な取組が重要です。組織文化の変革や長期的な視点でのスキルアップに組織全体で取り組む必要がありました」 と、振り返ります。
デジタル化を進めた具体的なフローについて、佐藤主任は次のように説明します。
「まず取り組んだのが業務の棚卸しです。認定係の職員全員に業務内容や業務工程、業務量をヒアリングし、全業務を“見える化”しました。その上で、一連の業務を四つのフェーズ(図4参照)に整理し、デジタル化すべき業務と、人が処理する方が効率的な業務を分類しました」

(図4:郡山市で整理した要介護認定事務の業務フローと事務デジタル化/同市の資料をもとにデジタル庁ニュースで作成)
以下では、郡山市がデジタル化に向けて重点的に取り組んだフェーズ3「認定調査票の確認作業」(一次判定)とフェーズ4「介護認定審査会」(二次判定)の具体的な取組を紹介します。
AIで認定調査票の確認を効率化:40分が5分に、見落としも削減

(AIシステムによる認定調査票の判定結果を表示した画面。申請者一覧のうち、基本調査のチェック項目と特記事項の記載内容で不整合があった利用者について赤色で表示している/撮影:デジタル庁)
認定調査票は、概況調査・基本調査・特記事項で構成され、質問事項は全体で74項目にわたります。このうち特記事項は、申請者固有の状況を伝えるために自由記載形式となっています。
佐藤主任は次のように説明します。
「従来は、認定調査票の記載内容に不整合がないか、職員が一件ごとに目視で確認していました。具体的には、基本調査の選択式チェック項目と特記事項の内容との間に矛盾がないかを読み合わせていました」
「この確認作業は介護度の判定に大きく影響する重要な作業ですが、チェック項目が多く、調査員によって手書きの癖があるため正確に読み取るのに時間を要し、職員の負担が重いものでした」
そこで導入したものが、企業との協業で生まれたAIの自然言語処理技術を活用した新システムです。認定調査票の基本事項と特記事項の整合性を確認し、不整合箇所にはシステムが自動的に指摘を入れます。
AIシステムによる指摘箇所のみ目視確認することで、認定調査票の確認作業は1件あたり平均40分程度から約5分へと大幅に時間を短縮できました。

(AIシステムによる認定調査票の判定結果画面で、AIが不整合と判断した該当項目を表示している。基本調査で「全介助」を選択している一方、特記事項で「炊飯の様子より『介助なし』」と記載があり、内容が矛盾している/撮影:デジタル庁)
AIシステムの導入により、職員による見落としや経験年数の差による判断のばらつきを減らすことにもつながりました。
導入にあたり、郡山市が工夫したポイントは以下の二つです。
1. PDF形式によるデータ化と入力フォームの作成:
AIシステムがデータに基づいて判断できるよう、これまで手書きや差し込み印字で作成されていた認定調査票のフォーマットを、直接入力できるPDF形式に変更し、CSVで取り込む形にしました。
2. AIシステムに合わせた文章表記の記載方法の統一(文例集の作成):
AIシステムが認定調査票を正しく読み取れるよう、特記事項の記述方法にルールを設けました。具体的には、文章を判読するための句読点の使用や改行など、記載方法を統一。また、同じ意味でも表現が異なるとAIシステムが混乱するため、文例集を用意しました。

(郡山市が作成した、要介護認定調査時のポイントと認定調査票文例集(第3版)/同市提供)
大量の紙資料、委員の移動負担を削減:審査会のデジタル化で二つの課題を同時解決

(介護認定審査会をオンラインで開催する郡山市役所職員/撮影:デジタル庁)
フェーズ4の「介護認定審査会」は、以前は対面で実施されており、大量の紙資料の準備が職員の大きな負担でした。
郡山市では1回の審査会で約30~40件の申請を審査します。1回あたり、認定調査票や主治医の意見書など、A3用紙に両面印刷で約50~100枚に及ぶ紙資料を8部印刷し、製本して委員に事前郵送していました。審査会は18合議体あり、年間で合計380回開催されるため、こうした資料の印刷・製本・発送作業を「ほぼ毎日のように」(佐藤主任)実施していました。
審査会に出席する委員の移動と時間拘束も課題でした。委員には医療関係者や福祉関係者が多く、開催のたび会場を訪れなければなりませんでした。
こうした中、厚生労働省は2020年2月28日に審査会のICT等を活用したオンライン開催に関する事務連絡 (※2) を、2023年5月8日には審査会のオンライン開催を継続してもよい旨の事務連絡 (※3) を発出しました。厚生労働省の事務連絡を踏まえ、郡山市は介護認定審査会のデジタル化に取り組み、ウェブ会議によるオンライン開催を実現しました。
(※2)「(事務連絡)新型コロナウイルス感染症に係る要介護認定の臨時的な取扱いについて(その2)」(2020年2月28日、一部抜粋):
介護認定審査会の開催に当たっては、ICT等の活用により合議ができる環境が整えられれば、必ずしも特定の会場に集まって実施する必要はないこと。また、これらの機器の整備等がない場合、例えば、あらかじめ書面で各委員から意見を取り寄せ、電話を介して合議を行い、判定を行うような取扱いとしても差し支えないこと。
(※3)「(事務連絡)ICT 等を活用した介護認定審査会の開催について」(2023年5月8日、一部抜粋):
「新型コロナウイルス感染症に係る要介護認定の臨時的な取扱いについて(その2)」(令和2年2月28 日付け厚生労働省老健局老人保健課事務連絡)において、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、介護認定審査会の開催に当たっては、ICT 等の活用により合議ができる環境が整えられれば、必ずしも特定の場所に集まって実施する必要はない旨をお示ししております。
本取扱いについては、介護認定審査会の業務効率化や日程調整等の事務負担軽減の観点から、今後、新型コロナウイルス感染症対策に限らず、実施できることとします。
審査会と事務局それぞれにタブレット端末を用意することで、紙資料にまつわる作業も不要になりました。資料を閲覧しやすいよう、各委員には資料投影用と会議用で2台のモニターを貸与しています。
こうした効率化の結果、担当職員の残業時間の短縮に加え、交通費や印刷費、郵送料の削減など、様々な成果が生まれました。Wi-Fi環境があればどこでも参加できることから、委員の出張や天候不良などによるスケジュール変更も減りました。
デジタル化にあたっては、約半年の「移行期間」を設け、委員のオンライン参加とタブレット端末の操作に対する不安解消にも努めました。現在では90人の委員のうち約8割がオンライン参加に移行しています。残りの約2割は「機器の操作に慣れない」などの理由で会場参加していますが、資料のペーパーレス化は実現しています。
あえて「デジタル化見送り」のフェーズも。現場判断で最適な方法を選択

(郡山市役所の介護保険課窓口/撮影:デジタル庁)
要介護認定事務の効率化を進める一方、あえてデジタル化を見送った業務もあります。四つのフェーズのうち、フェーズ2「認定調査」では、当面デジタル技術の本格導入を見送りました。
「認定調査」ではタブレット端末によるペーパーレス化を目指しましたが、74項目の質問をしながらのタブレット操作が難しく、現場で入力を完結させるとかえって時間がかかるため、紙にメモを取り持ち帰って入力する現状のフローの方がスムーズと判断しました。
フェーズ1「要介護認定申請」では、オンラインでの申請環境を整備しましたが、現状は窓口利用が大半を占めています。本人ではなく家族や居宅支援事業者が代行するケースがほとんどで、申請者の状態確認が必要なこともあるためです。郡山市では引き続き、利用拡大策を検討しています。
郡山市介護保険課では今後、デジタル化による業務効率化をさらに進め、高止まりしている処理期間の短縮を目指しています。佐藤主任は、 「1日でも早く正確に要介護認定の申請結果を市民の方にお届けしたい」 と話し、事務の効率化で得られた知見を今後の行政運営全般に活かしたい考えです。
業務改善のカギについて、佐藤主任は 「完璧を求めすぎないこと」 と説明します。
「AIには100%の精度をつい求めがちですが、AIの精度が80%でも残り20%を人間が担保すれば業務効率化を図れます。人間とデジタル、両方の力を合わせて業務改善を目指す形が良いと思います」
郡山市は早期にアナログ規制の見直しに着手した団体で、2024年6月、規制の見直しとデジタル化に伴い必要な規定の整理を完了しました。
●郡山市をはじめとする先行団体での見直し事例の詳細は、以下のリンクをご参照ください。
- アナログ規制見直し用例集|デジタル庁 (※外部リンク/[PDF])
ただし、実際の運用では全てのデジタル化が済んだわけではなく、 「次のフェーズで改善を図っていくことが必要」(市行政マネジメント課担当者) としています。
郡山市は「デジタル市役所」実現に向けて、「5レス」(ペーパーレス・キャッシュレス・カウンターレス・ファイルレス・ムーブレス)を推進しています。部署ごとの印刷枚数やウェブ会議の開催件数、オンライン申請件数やキャッシュレス決済比率など、5レスの項目ごとに設定した進捗状況を毎月集計。幹部職員に共有し、デジタル化を加速させています。
デジタル化の取組の中心にはAIの業務活用も据えており、デジタル技術の活用で業務効率化を図り、市民サービスの向上につなげたい考えです。
紙運用が20年以上続く要介護認定——厚労省、「介護情報基盤」整備で負担軽減へ

(厚生労働省老健局老人保健課・渡井課長補佐)
厚生労働省では、アナログ規制の見直しを通じたデジタル技術の活用、業務効率化を積極的に推進しています。要介護認定事務のデジタル化に向けた、モデル事業の実証にも取り組みました。
要介護認定制度を所管する厚生労働省 老健局老人保健課の渡井一輝・課長補佐は 「要介護認定事務のデジタル化は、作業を効率化する重要な取組です」 と話します。
「介護保険制度が始まった2000年以来、要介護認定は紙を前提とした運用が続き、申請者や介護現場の負担になっています。厚労省としては、審査短縮のため、条件付きで審査会の簡素化を認めています」
「郡山市はデジタル技術の先進的な活用で、要介護認定を効率的に運営しています。他の自治体の皆さまにも、デジタル技術を活用し、適切で迅速な認定につなげていただきたいです」(渡井課長補佐)
厚生労働省は、事務手続の負担をデジタル化で軽減すべく「介護情報基盤」(※外部リンク)の整備を進めています。本システムは2026年4月から稼働を開始し、利用する準備が整った市区町村から順次利用を開始する予定です。利用者の介護情報を集約し、書類をペーパーレス化することで、迅速な認定をサポートします。
具体的には、現在、医療機関から郵送されている主治医意見書について、電子的に送付され、システム上で取得できるようになります。また、要介護認定後も、ケアマネジャーによるケアプラン作成などに必要な要介護認定情報がウェブ上で確認できるようになるため、市区町村での窓口対応や郵送での提供が不要になります。
利用者の方々や市区町村、介護事業所、医療機関の職員等への介護情報基盤に関する情報は、「介護情報基盤ポータル」(※外部リンク)で提供しています。
介護情報基盤は「全国医療情報プラットフォーム」の一部として位置づけられ、「PMH(Public Medical Hub)」(※外部リンク)を活用しています。PMHは地方公共団体と医療機関などをつなぐ情報連携システムで、デジタル庁が整備を進めています。
デジタル庁、地方公共団体のデジタル化を伴走支援

(地方公共団体のアナログ規制見直しの取組に対する総合的な支援メニュー/デジタル庁資料)
デジタル庁では、アナログ規制の見直しを通じてデジタル化を加速する地方公共団体を支援しています。2024年度からは一般型支援に加え、地方公共団体ごとの課題に寄り添った「個別型支援」も提供しています。
デジタル庁職員が実際に訪問し、課題やニーズに応じた個別説明会や勉強会を実施するなどアナログ規制の見直しを伴走型で支援します。また、2025年度からは、生成AIの見直し作業への活用余地の研究も進めており、今後、一定のノウハウをデジタル庁のホームページで公表予定です。
●個別型支援の詳細については、以下のリンクをご覧ください。
デジタル庁は今後も、地方公共団体のデジタル化推進を支援してまいります。デジタル庁ニュースの動画では、審査会に参加する委員やデジタル庁担当職員のコメントを伝えています。あわせてご覧ください。
動画の内容をテキストで読む●関連情報は、以下のリンクをご覧ください。
- アナログ規制見直しの取組|デジタル庁(※外部リンク)
- 地方公共団体におけるアナログ規制の見直しの取組|デジタル庁(※外部リンク)
- テクノロジーマップポータル|デジタル庁(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、アナログ規制見直しに関する記事を掲載しています。以下のリンクをご確認ください。
- アナログ規制見直しとデジタル実装の好循環 ~福島県南相馬市における「作付確認」への衛星データとAI活用事例~|デジタル庁ニュース
- 生成AIで地方公共団体のアナログ規制見直し効率化を模索、業務に使えるプロンプト案作成のヒント|デジタル庁ニュース
- 【住民の不便を解消!】福岡市が行った“アナログなルール”の見直し|デジタル庁ニュース
- 【アナログ規制の見直し】沖縄県糸満市への「個別型支援」に密着取材|デジタル庁ニュース
- RegTechが支えるインフラメンテナンスの未来|デジタル庁ニュース
●デジタル庁ニュースの最新記事は、以下のリンクからご覧ください。