「小さな自治体でも進められる」築上町の実践が示すアナログ規制見直し推進と意識改革のヒント
- 公開日:
![]()
デジタル庁では、目視確認や書面対応などを求める「アナログ規制」を見直し、デジタル技術を活用できる環境整備を進めています。その一環としてアナログ規制の見直しに取り組む地方公共団体に対し、団体ごとの事情や課題に寄り添った「個別型支援」を提供しています。
人口約1万6,000人の福岡県築上町では一人の係長が担当となり、アナログ規制見直しの取組を推進。規制の洗い出しや見直しの方向性検討など、取組を進める中で様々な課題に直面しました。職員数200人規模という小規模団体のため、規制所管部門への負担軽減も考慮しながら進める必要もあり、担当係長は個別型支援などの外部リソースを活用しながら、一つずつ課題を解決し最適な進め方を模索しました。
今回のデジタル庁ニュースでは担当係長とその上司に、どのように課題を解決して取組を進めてきたのか、試行錯誤や工夫のポイント、デジタル庁の個別型支援の活用方法について話を聞きました。
<目次>
- デジタル化の遅れへの危機感、個別型支援を応募する決め手に
- 築上町のアナログ規制見直し──取組の全体像と現在地
- 【ステップ1・2】庁内説明のポイントは「実例を見せる」こと
- 【ステップ3】ツールを活用した洗い出し・絞り込み・色分けで効率化
- 【ステップ4】人手不足、工数増をどう乗り越えるか:生成AI活用の具体的方法
- 「小さな自治体でも進められる」築上町の経験が示すアナログ規制見直し推進と意識改革のヒント
- デジタル庁では規制見直しに取り組む自治体への伴走支援を提供中
デジタル化の遅れへの危機感、個別型支援を応募する決め手に

(築上町企画財政課の舛川係長)
築上町がデジタル化を本格的に開始したきっかけは、コロナ禍の2022年度のことでした。国の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を通じて、地方公共団体でもデジタル施策を盛り込んだ総合戦略を立てる方針が示されましたが、築上町ではDX推進を担う部署が明確に決まっていませんでした。
企画財政課企画計画係の舛川千菜美係長は、経緯を次のように説明します。
「町の総合計画を所管する企画計画係で一度、総合戦略の策定を検討することになり、まずは外部のデジタル人材の意見を聞くことにしました」(舛川係長)
そこで舛川係長は総務省「地域情報化アドバイザー派遣制度」を活用し、デジタル分野に詳しい専門家に相談。専門家からの助言をもとに、2023年度に「築上町DX推進計画」を策定しました。
計画策定を通じ、町の行政組織規則に企画計画係の業務としてDXの推進に関する事務を明記。2024年度にはデジタル化推進体制が整い、手始めにオンライン申請が可能になる町条例の作成や押印見直しに着手しました。
舛川係長は押印見直しの取組を進める中でデジタル庁による個別型支援事業の募集に関する事務連絡を受け、アナログ規制見直しへの着手を決めました。
「押印見直しを優先して進めていたところでしたが、アナログ規制の見直しも後回しにすると、押印見直しのように乗り遅れてしまう。やるなら今しかない。そのような危機感から、思い切って個別型支援を活用することにしました」(舛川係長)
築上町では押印見直しへの着手が他団体に比べて3~4年ほど遅く、舛川係長は 「デジタル化が全体的に遅れているとの焦りがありました」 と説明します。地域情報化アドバイザーからも、規模の小さな団体ほど積極的にデジタル化を進めなければ、住民サービスの低下につながるとの助言を受けていました。
舛川係長は町長にデジタル庁の個別型支援の活用を提案し、承諾を得て事業に応募しました。特定の業務を抱えていない係長が担当するのが適切と判断され、舛川係長がアナログ規制見直しの担当となりました。
事業採択後、デジタル庁の担当職員とオンラインや対面での定期的な打ち合わせを通じて、具体的な進め方を検討しました。
築上町のアナログ規制見直し──取組の全体像と現在地
デジタル庁は、地方公共団体向けに見直しの手順例をステップ1~5で整理しています。
- ステップ1「組織の意思統一・推進体制の構築」
- ステップ2「点検・見直し方針の策定」
- ステップ3「規制の洗い出しと類型・PHASEの当てはめ」
- ステップ4「見直しの方向性等の検討」
- ステップ5「見直しの実施」
築上町はこの手順例に沿って見直しを進め、2026年3月現在、ステップ3までを完了しています。実際にどのように取組を進めたのか、段階を追って解説します。
●デジタル庁がまとめた見直し手順例の詳細は、以下のリンクをご参照ください。
地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル|デジタル庁
【築上町での見直しスケジュール】
| 2025年4月 | DX推進本部会議で「築上町アナログ規制の点検・見直し方針」を協議・決定(ステップ1) |
| 5月 | 「築上町アナログ規制の点検・見直し方針」を策定し、全職員へ周知(ステップ2) |
| 6月〜7月 | 洗い出し作業準備を企画財政課で実施(ステップ3) |
| 7月 | アナログ規制見直し説明会を開催。規制所管部門に見直し方針・調査票入力を説明(ステップ3) |
| 7月〜8月 | 規制所管部門で根拠法令等、類型・現在フェーズ入力作業(ステップ3) |
| 9月〜10月 | 企画財政課で該当条項リスト作成(ステップ3) |
| 現在 | 規制所管部門へ聞き取り、工程表の策定、見直しの方向性確定(ステップ4) |
【ステップ1・2】庁内説明のポイントは「実例を見せる」こと
2025年3月下旬、町長・副町長・教育長と管理職が出席する「DX推進本部会議」で、舛川係長はデジタル庁の個別型支援を活用しながらアナログ規制の見直しを進めると説明し、2025年4月に見直し方針案を提示しました。
このときに工夫したポイントは、アナログ規制がどういったものか職員がイメージできるようになること。舛川係長は 「日頃なじみのない”アナログ規制”という言葉が何かを説明するところから始めました」 と話します。会議では、築上町の例規集からキーワード検索でピックアップした、規制に該当する実際の条例を資料にまとめて配布しました。

(「アナログ規制の例」/築上町提供)

(「アナログ規制の例」/築上町提供)
例えば、「築上町空き家等の適正管理に関する条例」第5条「町長は、この条例の施行に必要な限度において、職員に必要な場所に立ち入らせ、必要な 調査 をさせることができる」は「目視規制」に、「築上町固定資産評価審査委員会条例」第9条「書記は、 実地調査 について調書を作成しなければならない」は「実地監査規制」に該当します。
管理職への説明では特に異論が出なかったため、決定した見直し方針は庁内メールで全職員に周知しました。職員の負担を少しでも減らすよう、細かい解説は省略してシンプルな説明に努めました。
見直しの結果によっては条例改正が必要な可能性もあることから、法制事務を担当する総務課行政係にはこの段階で協力を要請しました。
【ステップ3】ツールを活用した洗い出し・絞り込み・色分けで効率化
ステップ3-1:色分けで規制類型への理解を促す一工夫
舛川係長はデジタル庁が整理した規制8類型すべてを点検・見直しの対象としました。一括して進める方が効率的だと判断したためです。
2025年6月から、舛川係長は見直し対象となる例規を洗い出す作業を進めました。7月23日には課長級・係長級職員向けの庁内説明会が予定されており、ここで規制所管部門に改正要否判断の作業を依頼できるように進めました。
洗い出し作業では、規制キーワードを含む例規を抽出し、規制類型別に振り分けます。一人で作業を進めていた舛川係長はデジタル庁職員に効率的な作業方法を相談したところ、例規を一括検索できる「アナログ規制点検ツール」(以下、点検ツール)の試行版を提案されました。点検ツールの試行版で作業効率が上がり、説明会までに洗い出し作業を完了できました。
点検ツールで抽出した例規は約5,800件。抽出結果から明らかに規制に該当しないものを除外し、約10分の1の580件まで絞り込みました。判断が難しい箇所は「該当」にして、規制所管部門の判断に委ねることにしました。
絞り込みの際は、デジタル庁が公表する「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル」(※外部リンク)や「地方公共団体におけるアナログ規制の見直しに係る課題調査報告書」(※外部リンク/[PDF])を参考に、該当可否を判断しました。
舛川係長はここでも職員の理解を促すため、独自の工夫を加えました。
点検ツールの試行版では抽出結果として、該当する規制キーワードが赤字で出力されます (※1) 。舛川係長は複数の規制類型が含まれる条文について、規制所管部門への作業依頼資料の欄を類型ごとに分けて記載し、該当しない規制キーワードを青字に変換。この作業で、類型ごとの規制がどのような内容かをアナログ規制に詳しくない規制所管部門の職員にも一目で分かるようにしました。
【例】
(築上町畜犬条例(平成18年1月10日条例第105号)に含まれる規制キーワードを規制区分「目視」「定期検査・点検」「往訪・閲覧縦覧」ごとに色分けしてある/築上町提供)
(※1) 現在公開中の「地方公共団体向けアナログ規制点検ツールα版」(※外部リンク)では、規制類型ごとに色分けする機能を搭載しています。作業手順書もあわせてご覧ください。
ステップ3-2:規制所管部門の負担軽減を念頭に依頼、一対一での対応も
7月の説明会は規制所管部門の課長級・係長級職員を対象にデジタル庁と合同で開催しました。前半はデジタル庁職員がアナログ規制について解説し、後半は舛川係長が作業内容を説明しました。
規制所管部門には、舛川係長による洗い出し作業をもとに規制類型を分類するよう依頼しました。洗い出し作業の結果は、デジタル庁が公表する参考資料3「アナログ規制点検・見直し対象リスト様式例」(※外部リンク/[Excel])をベースに作成した資料に記載し、説明会で配布しました。規制所管部門には、この資料の類型・PHASE欄 (※2) への記入を依頼しました。

(アナログ規制点検・見直し対象リスト様式例/デジタル庁資料)
(※2) 各規制の現在の状況を整理する観点から、当該規制の趣旨・目的や現時点のデジタル化の進捗度合いを入力します。国の見直しにおける類型・PHASEの考え方は、参考資料8「(別紙)デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」(※外部リンク)・参考資料9「国会提出予定法案に係るデジタル原則適合性確認等のための指針」(※外部リンク)をご覧ください。
説明会では、実際の条例をもとにした規制根拠の分類事例も示しました。規制根拠の分類を確認することで、続くステップ4・5での検討ポイントが明確になります。職員の理解を深めるための工夫の一つです。

(a規制「国の法令等、県条例等に基づいて定めている規制」について、築上町の実際の条例に基づく分類例/築上町提供)
規制所管部門への依頼時、舛川係長は 「できる限り負担を減らした形で作業を依頼しました」 と話します。
「築上町ではアナログ規制の見直しの他にも、通常業務以外で新規業務が二つほど同時に進んでいました。別案件についても全庁に向けて照会していたので、職員の負担軽減を第一に考えました」(舛川係長)
説明会の後「アナログ規制」への関心も次第に高まり、規制所管部門で作業を担当する職員から個別に問い合わせがありました。舛川係長はその都度、一対一で疑問点や不明点の解消に努めました。
【ステップ4】人手不足、工数増をどう乗り越えるか:生成AI活用の具体的方法
築上町では規制所管部門による類型・PHASE入力結果のとりまとめを完了し、2025年11月のDX推進本部会議で取組の進捗状況を報告しました。

(2025年11月のDX推進本部会議で報告した、企画計画係での洗い出し・選別作業の結果/築上町提供)

(2025年11月のDX推進本部会議で報告した、洗い出し結果を規制類型ごとに割り振った件数/築上町提供)
築上町は2026年1月現在、ステップ4の途中で取組を一時中断しています。企画計画係で一時的に人員が不足し、既存業務への対応を優先せざるを得ない状況となったためです。
「アナログ規制の見直しは私一人で進めていたため、係員に振るのも申し訳なく……一度、取組を中断することにしました」(舛川係長)
舛川係長の上司・椎野満博課長が続けます。
「県や規模の大きな市町村であれば別ですが、築上町役場の職員は200人規模と限られた人数で運営しており、すぐには代替要員を補充できない状況にあります」(椎野課長)
当初は2025年度内での完了を目指し、2025(令和7)年度3月議会に改正条例案を提出する予定でしたが、スケジュールを改め、2026年度も継続して取組を進めます。舛川係長は今後の進め方についてこう話します。
「ステップ4も規制所管部門にはなるべく手間をかけないようにして、他の自治体や国の上位法での見直し事例の情報収集をした上で、見直しの方向性について各部門と一緒に検討したいです」(舛川係長)
デジタル庁の担当者は2026年1月に築上町を訪問し、作業の進捗と課題をヒアリングしました。この時点で築上町が直面していたのは、見直しの方向性の素案作りでした。条例を改正するのか、解釈・運用の見直しで対応するのか――。規制所管部門による回答を一件ずつ精査・判断する作業に多くの工数がかかっていました。
そこでデジタル庁の担当者は、素案のたたき台を生成AIで作成する方法を提案。築上町の見直し関連資料とプロンプト(生成AIに送る指示文)を活用して仮の素案を作成するなど、生成AIの活用法を解説しました。

(築上町役場の舛川係長らが、デジタル庁職員による見直し作業効率化のための生成AI活用法の解説を聞いている/デジタル庁撮影)
デジタル庁では見直し作業の効率を上げるべく、生成AIの活用を模索しています。現在、見直し作業専用のプロンプトの検証を進めています。
●デジタル庁では、アナログ規制の見直しに役立つAIプロンプト案作成のワークショップを実施しました。詳細は以下のリンクをご覧ください。
「小さな自治体でも進められる」築上町の経験が示すアナログ規制見直し推進と意識改革のヒント

(築上町企画財政課の舛川係長)
築上町では2027年度から新しい総合計画がスタートします。2026年2月には20年ぶりに新たな町長が就任し、町は大きな転換点を迎えました。総合計画の策定にあたっては、まちづくりの方向性の意識付けのため、全職員を対象とした研修を実施しました。
研修の講義を担当した椎野課長は 「若い職員たちの力は素晴らしい。私たちはその力を引き出すために努力を継続します」 と話します。
舛川係長は続けます。
「小規模自治体であるほど、日々変化するデジタルを活用しなければ生き残れません。職員は減る一方、新たな課題はどんどん出てくるので、職員が自ら情報収集して新しい取組に挑戦し、業務を変えていく必要があります」
舛川係長はアナログ規制見直しの意義についても語ります。
「職員の意識改革のきっかけにもなると思います。職員一人ひとりが変革に慣れ、新しいことに前向きに取り組める組織になれば嬉しいです」

(築上町企画財政課の舛川係長(左)と椎野課長)
見直し作業を中断せざるを得なかった経験が、デジタル化を通じた業務効率向上の必要性を改めて明確にしました。
今後について、舛川係長は 「必ず最後までやりきりたいです」 と意気込みます。デジタル庁の支援については「定期的な打ち合わせで丁寧な助言をもらいました。同規模の他自治体の事例も教えてもらい、とても助かりました」と振り返ります。
最後に、舛川係長はこれから見直しに取り組む地方公共団体へのメッセージを語りました。
「まだ完了できていませんが、築上町のような小さな自治体でも見直しを進められることを皆さんにお伝えしたいです。他団体の事例が蓄積されれば、これから着手する団体はもっと取り組みやすくなると思います」
デジタル庁では規制見直しに取り組む自治体への伴走支援を提供中

(地方公共団体のアナログ規制見直しの取組に対する総合的な支援メニュー/デジタル庁資料)
デジタル庁では、アナログ規制の見直しを通じて、デジタル化を加速する地方公共団体を支援しています。2024年度からは一般型支援に加え、地方公共団体ごとの課題に寄り添った「個別型支援」も提供しています。
デジタル庁職員が実際に訪問し、課題やニーズに応じた個別説明会や勉強会を実施するなどアナログ規制の見直しを伴走型で支援します。また、2025年度からは、生成AIの見直し作業への活用余地の研究も進めています。
●デジタル庁では、生成AIの見直し作業への活用ノウハウを公表しています。詳細は以下のリンクをご覧ください。
●個別型支援の詳細については、以下のリンクをご覧ください。
デジタル庁は今後も、地方公共団体のデジタル化推進を支援してまいります。
●関連情報は、以下のリンクをご覧ください。
- アナログ規制見直しの取組|デジタル庁(※外部リンク)
- 地方公共団体におけるアナログ規制の見直しの取組|デジタル庁(※外部リンク)
- テクノロジーマップポータル|デジタル庁(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、アナログ規制見直しに関する記事を掲載しています。以下のリンクをご確認ください。
- アナログ規制見直しとデジタル実装の好循環 ~福島県南相馬市における「作付確認」への衛星データとAI活用事例~|デジタル庁ニュース
- 生成AIで地方公共団体のアナログ規制見直し効率化を模索、業務に使えるプロンプト案作成のヒント|デジタル庁ニュース
- 【住民の不便を解消!】福岡市が行った“アナログなルール”の見直し|デジタル庁ニュース
- 【アナログ規制の見直し】沖縄県糸満市への「個別型支援」に密着取材|デジタル庁ニュース
- RegTechで3.6兆円の経済効果!「アナログ規制見直し」が日本の未来を変える|デジタル庁ニュース
- RegTechが支えるインフラメンテナンスの未来|デジタル庁ニュース
●デジタル庁ニュースの最新記事は、以下のリンクからご覧ください。