ガバメントAIとは?デジタル庁が進める政府AI活用戦略【解説】
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人口減少と少子高齢化により行政職員の担い手が不足する中、公共サービスを維持・強化するには、政府や地方公共団体での生成AIの積極的な利活用が不可欠です。デジタル庁では、政府が率先して安全・安心な生成AIの活用を推進する環境として、政府全体の基盤となる「ガバメントAI」の整備を進めています。
今回のデジタル庁ニュースでは、「ガバメントAI」やその取組の第一歩としての生成AI利用環境「源内」など、日本のAI政策の今とこれからについて、デジタル庁でAI領域を統括する山口真吾参事官が解説します。
目次
急速な技術革新が進む生成AI。政府が行政へのAI実装を目指す理由

(デジタル庁の山口真吾参事官)
――AIを取り巻く世界情勢はどのような状況でしょうか。
山口:
世界的に、AIの技術革新が急速に進んでいます。皆さんもご覧になっていると思いますが、毎日のようにAI関連のニュースがあり、それほどAIへの注目が高まっています。特に、AIの技術開発や事業創出に大きな関心が寄せられています。
海外に目を向けると、AI先進国として知られるアメリカ、中国、イギリスでは2025年に入り、AI国家戦略を相次いで公表しています。各国とも、AI開発で覇権を握ろうとする姿勢を鮮明にしています。

(AIをめぐる最新の状況)
こうした状況から、日本においても官民ともに、AIについてはその使用の是非ではなく「いつ導入して使うのか」という段階に突入したと理解する必要があります。
――日本でも行政機関へのAI実装は必要なのですか。
山口:
必要だと考えます。
日本では、人口減少による人手不足が深刻化してきているからです。地方自治体や政府機関での公共サービスを維持・強化するには、AI活用は不可欠でしょう。
一方、民間におけるAIの活用や投資を促進するためにも、政府が率先して、安全・安心なAIの利用を積極的に進めていく必要があります。

(AIをめぐる最新の状況)
このため政府は2025年5月、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(※外部リンク)(以下、AI法)を成立させました。
AI法では、内閣総理大臣を本部長としたAI戦略本部の設置や、実施すべき施策の基本的方針となるAI基本計画の策定などを定めています。政府はAI法に基づいて各種取組を実施し、日本を「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」とすることを目指しています。
デジタル庁は、政府内でAI実装を先導する役割を担っています。現在は政府全体でAIを積極的に活用できるようにするため、「ガバメントAI」の構築を目指しています。

(政府の動き)
「ガバメントAI」第一歩の「源内」。デジタル庁内で検証、他府省庁への展開も予定

(ガバメントAIとは)
――「ガバメントAI」(※1)とは、政府職員が安全・安心にAIを活用できる基盤です。ガバメントAI構築の第一歩となるのが、生成AI利用環境「源内」(※2)です。
山口:
現在、源内はデジタル庁の全職員が利用できるプラットフォームとして、様々なAIアプリケーションを提供しています。行政特有の機密性の高い情報も扱えるよう、“内製”でアプリを開発し、セキュリティ対策を施しています。
また、法令や官報などの大規模な政府共通データセットも利用できるようになります。そうしたデータセットや各府省庁の持つデータも含めて、AIに学習させることで、データをより効果的に活用できるようになります。
なお、源内の利用については、2026年1月以降に一部の省庁への導入を、2026年度以降に希望する府省庁への本格的な展開を予定しています。

(生成AI利用環境「源内」の仕組み)
(※1) ガバメントAI:生成AIに代表されるAIを政府業務で活用するための様々なアプリケーション、クラウド環境、大規模データセット、活用事例集(ユースケース)、セキュリティ対策、運用ノウハウ、政府全体のリスク管理体制などを統合したプロジェクト構想のこと。
(※2) 源内:政府全体の基盤「ガバメントAI」に係る取組の一部として、デジタル庁が内製開発で構築した生成AI利用環境のこと。「Generative AI」を略して「Gen AI」、「ゲンナイ」と読むことに加え、江戸時代の発明家・平賀源内の精神を生かして命名した。
2025年5月、デジタル庁職員向けに提供を開始し、行政の現場での利用状況や課題を把握する検証を進めた(検証結果:デジタル庁職員による生成AIの利用実績に関する資料を掲載しました|デジタル庁(※外部リンク))。

(源内の利用画面)
――こちらが源内の利用画面です。様々なAIアプリが並んでいます。
山口:
源内では、大きく分けて2種類のAIアプリを提供しています。
一つは、汎用型のAIアプリ。チャットでの対話や文章の要約、文章自体の生成などがあります。もう一つは、行政実務に特化したAIアプリで、例えば、法制度に関する調査支援や、過去の国会答弁の検索を実行できます。
行政実務特化アプリについてもデジタル庁が内製開発しており、2025年8月時点では20種類以上のアプリを源内で提供しています。

(生成AI利用環境「源内」で利用可能なAIアプリケーション)
●行政実務に特化したAIアプリは、現場の職員の声などを基に作られています。AIアプリ開発の様子は動画からご覧ください。
高度な業務へのAI実装、ワークフロー見直しが成功の鍵に
他府省庁のAI活用も支援。2か月かかる分析業務を3日に短縮

(「高度なAI」の必要性)
――開発現場を取材しましたが、意外と簡単に開発できるAIアプリもあるのですね。
山口:
ただ、業務の効率化をするためには、ワークフローに根差した、より“高度なAIアプリ”を作っていかなければなりません。
例えば、中央省庁には、政策の企画立案という重要な業務があります。業務の過程で膨大な資料を集め、分析する作業が求められます。しかし、この作業には相当の時間がかかります。
中央省庁では調査や統計分析のため、専門人材の力を借りながら、レポート作成を進めています。そうした業務をスピードアップしながら、正確に行うには、時間と質の両立が課題になります。
なかでも、統計データ分析をAIが担うようになれば、より正確かつ高度な分析を実現できる見込みがあり、業務の効率化に加えて質の向上も期待できます。
――高度なAIアプリの開発・活用について、デジタル庁は他府省庁への支援も始めています。
山口:
例えば、農林水産省に対し、同省が実施した大規模な米の生産意向調査の回答を、AIを活用した分析を支援しました。その結果、職員一人で約2か月かかる分析作業を、約3日間に短縮できました (※3) 。
このように、行政職員はAI活用で、政策課題の解決に向けてより高度な調査・分析・政策立案に集中できるようになります。

(高度なAIの有効活用例)
(※3) 農林水産省は2025年6月~8月、今後の米政策を検討するにあたり、米の販売農家・農業法人その他経営体に対して、米の生産意向に関するアンケート調査を実施。短縮できた時間は30項目のアンケート回答8,095件のデータ分析作業を前提とした場合にデジタル庁において推計した。デジタル庁が所要時間を推計した。なお、農林水産省が実施したアンケート調査の概要とデジタル庁の支援内容は以下の通り。
内容:
米の販売農家・農業法人その他経営体に対する、今後の米の生産意向に関するアンケートアンケート項目:
現在の経営状況(年齢、水稲作付面積、うち主食用米作付面積等)、今後(来年、5年後、10年後)の米の生産意向(拡大、現状維持、縮小等)、拡大・生産継続するにあたっての課題、自らの生産コストの把握状況など約30項目デジタル庁の支援内容:
農林水産省が立案した20件以上の仮説に対して、デジタル庁は、AIを活用して、約8,000件のアンケート回答に対する仮説の妥当性を検証。検証結果を農林水産省に回答することで、同省ではアンケート回答の特徴や傾向を短時間で把握することが可能となったAI活用による効果:
従来は数十~数百パターンの「クロス分析」(複数のデータ項目を組み合わせる分析)を手作業で集計し、その結果からデータの特徴や傾向をまとめ、仮説を推理し、妥当性を人間が検証していたが、AIの活用で作業時間の短縮につながった。結果、行政職員は、政策課題の解決に向けて、より高度な調査・分析・政策立案の作業に集中できるようになる。
海外では失敗例も…AI実装には「業務の進め方そのものの見直し必須」
――具体的な数字で成果も見えてきたことで、政策の立案や進め方も変わってきそうです。
山口:
その上で強調したいのは、AIを十分に活用していくためには、業務の進め方そのものから見直すべきだということです。
AIと聞くと、対話型のチャットのようなものを想像する方が多いと思いますが、こうした汎用的な利用だけでは、抜本的な業務改善にはつながりません。
ワークフローの見直しも同時に考えていかなければ、AI実装は失敗します。海外では、そうした失敗例も出てきています。
「業務にAIを付加する」ではなく「AIの仕組みや特長を前提に、業務やデータのあり方を検討する」。 こうした思考の転換が求められます。ワークフローの見直しは容易ではありませんが、果敢に取り組むべきです。
今後はより高度で先進的なAIアプリを、民間とも連携して開発していく必要があると考えています。政府だけではなく、民間の活力やアイデアも活用しながら、ガバメントAIの基盤を構築したいと考えています。

(行政のAI実装に向けて)
――今回は生成AI利用環境・源内と、その先に見据えるガバメントAIについて紹介しました。最後に、AIを業務に生かす上で大切なことを教えてください。
山口:
実はAIというものは、データを更新したり、回答精度を確認したりと、利用者自らによる工夫が求められる技術です。政策推進を担うAI実装総括班をはじめ、デジタル庁ではAIを「育成型の技術」と呼び始めています。
AIは、従来の情報システムやソフトウェアとは少し異なると、ぜひご理解いただきたいです。やや厄介な技術と感じるかもしれませんが、今こそが利用促進の頑張りどきです。
デジタル庁としては、AIを使いこなした政府や国が勝ち残るという意気込みでガバメントAIを推進したいと考えています。霞が関の政府職員は約30万人います。その全員を“AIエンジニア”にするような勢いで、AI活用の環境を構築したいですし、そのための知識・ノウハウを共有していきたいです。ぜひ私たちと一緒に挑戦していただきたいです。
●山口参事官が出演する解説動画もあわせてご覧ください。
●関連情報は、以下のリンクをご覧ください。
- 共創PFキャンプinデジタル庁~自治体業務のAI活用編~を開催しました|デジタル庁(※外部リンク)
- 5時間で38個のデモをその場で作った、デジタル庁でのAIアイデアソン・ハッカソンの新しい形式を共有します|デジタル庁note(※外部リンク)
- ガバメントAI、プロジェクト「源内」の構想紹介|デジタル庁note(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、AIに関連する記事を掲載しています。以下のリンクをご覧ください。
- 行政職員の悩みをその場で解決!AIアイデア・ハッカソン|デジタル庁ニュース
- 【宇和島AIアイデアソン】人手不足や複雑な窓口業務・AI活用で自治体業務の課題解決を|デジタル庁ニュース
- 自治体業務へのAI活用、まずは“困りごと”を掴むところから。(共創PFキャンプ自治体業務のAI活用編レポート)|デジタル庁ニュース
- 行政の未来を切り拓く。デジタル庁「AI班」の奮闘に密着 |デジタル庁ニュース
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