失敗こそ、最高の教材だ。先進自治体が明かす「疲れないDX推進」の実践例
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他の自治体の成功事例は、DXを進めるうえで心強い手本になります。ただ、その一方で、「うまくいった話」だけでは見えてこないものもあります。
どこでつまずき、どう乗り越えたのか――。実際にDXを前に進めるヒントは、そうした試行錯誤の中にこそあるのかもしれません。
地方公共団体と政府機関の職員が自由に意見を交わせるオンライン上のコミュニティ「デジタル改革共創プラットフォーム(共創PF)」(デジタル庁が運営)では、オフラインの勉強会「共創PFキャンプ」を全国各地で随時開催しています。2026年6月開催の「共創PFキャンプ in デジタル庁『疲れないDX推進』を考える編」には、全国から35自治体・48名の職員が参加しました。
この日のテーマは「疲れないDX推進」。正解を外に探し求めて消耗するのではなく、自分たちの現場に合った進め方を着実に積み重ねていく。そのための知恵を、登壇者と参加者が語り合いました。都内自治体のDXを支援するGovTech東京、組織へのDXの浸透に取り組む岐阜県下呂市、失敗の分析を推進に生かす栃木県真岡市が、自らの試行錯誤やつまずきも率直に語り、「疲れないDX推進」のヒントを参加者たちと分かち合いました。また、総務省からは自治体向けの支援メニューが案内されました。
この記事では、主に自治体職員の方に向けて、登壇者が語った試行錯誤とそこから得た学びを紹介します。
人から人へ、都内自治体に広がるDXの輪(GovTech東京)

(登壇するGovTech東京の田邊進一氏)
小さく始めて、バトンをつなぐ
GovTech東京(DX協働本部 区市町村DXグループ長)の田邊進一氏は、東京都デジタルサービス局とバディを組んで都内の自治体DXを支援する「小さく始めてバトンをつなぐDX」を紹介しました。
GovTech東京は「情報技術で行政の今を変える、首都から未来を変える」というビジョンを掲げ、2023年9月に事業を開始しました。民間人材と行政職員が共同する組織として、2026年6月時点で351名が在籍。田邊氏が所属する区市町村DXグループは2023年度に6名でスタート。都内自治体からの派遣職員を受け入れながら、同時点で33名で構成されています。
主な取組の一つが、行政職員が集まり、繋がる場「Tokyo DX collaboration」の開催です。田邊氏によると、この取組は「他の自治体からの派遣職員ともっと繋がりたい」という声をきっかけに生まれたそうです。毎月テーマを変えながら発表やワークショップを実施し、2年間で延べ898名が参加。2025年度からは、自治体からの派遣職員が企画の中心を担っています。専任の担当者はあえて置かず「それぞれの時間を少しずつかけて運営している」と田邊氏は話します。
こうした取組の根底にあるのが、「小さく始めて、バトンをつなぐDX」という考え方です。所属メンバーにはそれぞれ任期があるため、「在職期間中に成果を作り、継承できる形でバトンを渡すことを常に意識している」と田邊氏は紹介しました。
バトンを受け取り、帰任後に見えてきたこと・変わったこと

(左から、登壇する新井晶子氏(調布市)と脇田伊織氏(品川区))
続いて登壇したのは、そのバトンを受け取った二人。GovTech東京への派遣を経験した調布市行革DX推進課の新井晶子氏と、品川区デジタル推進課の脇田伊織氏です。
派遣前の自身について、新井氏は「目の前の業務に追われる毎日で、DXにあまりプラスのイメージを持っていませんでした」と振り返ります。そんな意識に変化が生まれたのが、GovTech東京への1年間の派遣でした。各地の自治体DXのイベントに、時に参加者として、時に運営側として携わるなかで、完璧に準備しなくても「まず小さく始める」ことの大切さを体感しました。
帰任後は人のつながりとノウハウを生かし、庁内向けイベント「CHOFU DX MATSURI 2025」を開催。部署を越えて職員がDXの取組を持ち寄り、他の自治体からも人が訪れ、当日は443人もの参加者が集まったといいます。
「他の部署や自治体がどんなDXに取り組んでいるのか分からない、という声は多いので、職員が庁内外の取組を知る良いきっかけになったと思っています。CHOFU DX MATSURIは、他の自治体のDXイベントを参考に実現できました。当市の事例も、他自治体の皆さんが同様の取組を考える際の一つの参考になれば嬉しいです」(新井氏)
品川区デジタル推進課の脇田氏も「DXというと、システムやネットワークに詳しくないと務まらないのだろうと、身構えていました」と、当初は気後れしていたと振り返ります。
派遣中は、伴走支援で専門家に同行しながらいくつもの自治体DXの現場を回り、他の自治体から来た派遣仲間とも机を並べました。こうした中で、DXの進め方も抱える事情も、自治体ごとにまったく異なるという現実が見えてきました。その経験が、帰任後に「伝える側」として立つ自信につながったといいます。
品川区に帰任後はデジタル推進課で生成AIの活用や人材育成、窓口DXに取り組んでいます。今では他の職員からDXに関する相談が寄せられるようになりました。
「今日のような場も含めて、外で得たものを一つでも持ち帰り、隣の人や同じ課の仲間に伝えられたらと思います」(脇田氏)
「意識を変えてから動く」は逆。小さく動いて変えていく(下呂市)

(登壇する下呂市の長尾飛鳥氏)
下呂市DX戦略室の長尾飛鳥氏は、現場に寄り添いながら「小さく動く」ことで組織を変えていく実践を語りました。長尾氏は健康課、市民課、企画課などさまざまな部署を経験し、現在は下呂市のCDO(最高デジタル責任者)補佐官等のほか、デジタル庁の共創PFアンバサダーも務めています。
DX担当に就いてから続けている習慣として紹介したのが「小さな越境」。週に1度は別の部署へ出向き、そこで自分の仕事をする。市民課で半日過ごすこともあれば、福祉の部署で仕事をすることもあるそうです。
「声をかけてもらう機会も広がり、時には消防署やこども園、中学校の職員室にまで足を運ぶようになりました。現場の皆さんにDXをジブンゴトにしてもらうためには、まずDXを進める側が現場をジブンゴトにしなければならないと思ったからです」(長尾氏)

(長尾氏の投影資料より)
こうした「小さな越境」を重ねるなかで、長尾氏はあることに気づきます。DXが止まる最大の理由は、技術ではなく「現場の納得感」にある、と。トップは推進の旗を振りますが、現場は目の前の業務に追われています。その溝を埋めないまま進めようとすることが、DXが疲弊する原因だと長尾氏は指摘します。
自身も、かつてその溝にはまった一人でした。DX担当になった当時、市役所ではすでにいくつかのオンラインツールが導入されていましたが、議会や財政部門などから費用対効果を問われる中、気づけば数字を示すことばかりに力を注いでいたと振り返ります。
しかし、ただでさえ忙しい現場に「効率化」まで求めるのは無理がある。そう気づいてから、組織のなかで「効率化」という言葉を使わないようにしました。
「現場が求めていたのは、目の前の面倒や不満の解消だったからです」(長尾氏)
この経験から生まれたのが、「引き算のDX」という考え方です。

(長尾氏の投影資料より)
「生産性とは『何をやるか』ではなく『何をやらないか』」と長尾氏は語ります。何かを新しくデジタル化するのではなく、業務そのものをなくす。業務がなくなれば、面倒や不満も根元から消える。長尾氏によると、毎週金曜15時に「今週やめること」を振り返る時間をつくり、この考え方を実践に落とし込んでいるそうです。

(長尾氏の投影資料より)
変革を加速させるポイントとして、長尾氏は以下の五つを挙げました。
①現場の違和感を起点にする(一番重要)
②やらないことを決断する
③対話で周囲を巻き込む
④AIを優秀な相棒にする
⑤「TTPA」で小さく速く試す。
ちなみに長尾氏によると、TTPAとは「徹底的にパクってアレンジ」の略。他の自治体の事例をそのまま真似るのではなく、「自分たちの付加価値をつけることで、元の事例を超えていく」という考え方とのことです。
一方で、こうした話をすると「自分の自治体では難しい」という声もよく聞かれるそうです。そうした声に対して長尾氏は、こう語ります。
「その気持ち、よく分かります。でも、周りの人や環境を変えることからは始めません。『意識を変えてから行動する』という順番も、私は逆だと思っています。意識を変えようとすると、現場は反発してかえって動けなくなってしまいます。まずは自分が変わること。そして、小さく動いてみる。やってみて『意外に良かった』と感じる体験が積み重なることで、意識は後から変わっていくのです」(長尾氏)

(長尾氏の投影資料より)
最後に長尾氏は、自分なりのDXの解釈として、以下のように話しました。
「“DX”とは、“ドロクサイ変革”のことだと捉えています。その変革を進めるための手段として、デジタルがある。そう考えています」(長尾氏)
正解は外にない。自分たちの「失敗」を見つめる(真岡市)

(登壇する真岡市役所の石崎努氏)
真岡市役所デジタル戦略課デジタル政策係長の石崎努氏は、自らの失敗経験を題材に「疲れないDX推進」の考え方を語りました。
成功事例を紹介しても、なかなか現場が動かない。そんな経験から石崎氏がたどり着いたのは、「正解は外に探すのではなく、自分たちの失敗を見つめるところから始まる」という考え方です。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉を引きながら、失敗には必ず理由があり、それを分析することにこそ次に活かせる学びがあると指摘します。
登壇では電子決裁システムの導入とオンライン申請にまつわる二つの失敗を紹介。なぜ、システムを入れたのに現場が混乱したのか。なぜ、良かれと思って進めた取組が反発を招いたのか。自らのつまずきを語りました。
●石崎氏の登壇内容の詳細は、以下のリンクをご覧ください。
自治体DXを「連携」で支える。総務省の支援メニュー(総務省)

(登壇する総務省の櫻井俊寿氏)
総務省(自治行政局地域情報化企画室 地域情報化第一係長)の櫻井俊寿氏からは、自治体が実際に活用できる支援メニューの紹介がありました。
DXの恩恵を全国の住民に届けるには、職員数が少なく手が回りにくい小規模な自治体も含めた全国的な推進が欠かせません。一方で、DXには専門性が必要で、個別の自治体だけでは人材の確保に限界があります。
紹介された支援策は、そうした課題を抱える自治体が一人で抱え込まなくて済むための仕組みです。

(総務省提供資料より)
都道府県に専門人材を。「アクセラレータ」による市町村支援

(総務省提供資料より)
支援の柱の一つが、市町村支援を担う専門人材「アクセラレータ」です。都道府県が、デジタル人材としてのスキル・経験を有し市町村支援業務を行う職員を確保した場合に「自治体DXアクセラレータ」に任命される仕組みで、今後数年間で全国500名程度の確保を目指しています。
令和7年度(2025年度)の65名・25団体から、令和8年度(2026年度)4月1日時点では121名・40団体に増えました。確保にかかる普通交付税措置も、令和8年度は1人当たり840万円程度となっています。

(総務省提供資料より)
支援のかたちは、市町村のニーズやアクセラレータの人数に応じて4つの類型に分かれます。
都道府県で相談に応じる「相談対応型」、管内を巡回して課題を掘り起こす「市町村巡回・課題発掘型」、特定の市町村を重点的に支える「特定市町村重点型」、市町村に勤務して実務まで担う「市町村勤務型」です。
前者3つは都道府県庁への常駐を基本としますが、「市町村勤務型」のみ市町村での勤務を基本とし、日常的な業務支援まで担います。
市町村が直接使える措置と、人材確保を後押しする支援

(総務省提供資料より)
市町村が直接活用できる措置もあります。CIO(最高情報責任者)補佐官等の外部人材の任用等にかかる特別交付税措置は令和11年度まで延長されています。

(総務省提供資料より)
またDX推進リーダーの育成にかかる特別交付税措置は、令和8年度(2026年度)から都道府県や近隣市町村と連携した広域的な人材育成も対象になりました。

(総務省提供資料より)
都道府県の人材確保や市町村支援の取組を伴走で支える「自治体デジタル人材確保支援事業」も実施されています。
櫻井氏によると、今年度は6県が採用されており、人材確保が難しいと課題を抱えるところにもノウハウの提供や採用に向けた支援を実施しています。また、全国の自治体のデジタル人材の採用情報を一覧できるランディングページも整備されています。

(総務省提供資料より)

(総務省提供資料より)
DX各分野の専門家によるアドバイスを費用負担なく受けられる「DXアドバイザー事業」も利用できます。
申請1件あたり年間原則10回以内のアドバイスを受けられ、令和8年度からは派遣回数が年間原則5回から10回に拡充されました。
スキルを育てる。デジタル分野の研修メニュー

(総務省提供資料より)
また、デジタル分野の研修メニューもあります。DX推進リーダー育成特別研修は、9月と12月に自治大学校、3月に市町村アカデミーで実施予定です。また、近年のサイバー攻撃の高度化を踏まえ、10月と12月にサイバーセキュリティ対策に関する研修も開催予定となっています。
このほか、自治体DXに関する研修は関係機関と連携しながら幅広く提供されており、詳細は総務省ホームページで確認できます。
「個々の自治体では限界があるから、連携で支える」というのが、これらの支援に共通する考え方であると櫻井氏は説明。一つの自治体だけで抱え込まなくてもいい。そのための仕組みの整備を、総務省と都道府県が進めています。
お知らせ:デジタル庁の自治体DX支援
デジタル庁では、自治体の窓口DXを後押しする複数の取組を進めています。
一つが「窓口BPRアドバイザー派遣事業」です。窓口BPRについて高い知見・経験を持つ自治体職員をデジタル庁が「窓口BPRアドバイザー」として委嘱し、派遣を希望する自治体へ派遣します。アドバイザーは、自治体が窓口BPRを自走するための助言・提言・情報提供など、きっかけづくりを担います。
もう一つが、データを活用して窓口業務を支援する「窓口DXSaaS」です。自治体が自らの理想の窓口にマッチするサービスを選択できる仕組みとなっています。これらの取組の詳細や実践事例については、以下の記事をご覧ください。
こうした取組と並行して、デジタル庁では「デジタル改革共創プラットフォーム(共創PF)」を運営しています。ビジネスチャットツールSlackを活用し、国と地方の垣根を越えて日々の悩みから政策立案まで気軽に相談・情報共有できる場です。窓口DXに取り組む自治体からの気付きも日々共有されています。
地方公共団体と政府機関の職員であれば誰でも参加でき、1,530の地方公共団体から約1万3,300人、38の政府機関から約2,100人が参加しています(2026年3月末時点)。業務や政策テーマごとにチャンネルを開設しており、随時参加者を募集しています。ご参加をお待ちしております。
●共創PFに関する情報や関連記事は、以下のリンクをご覧ください。
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