「正解探し」をやめたら、見えてきたこと。真岡市担当者が語る「疲れないDX推進」のヒント
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「DXを進めたいのに、現場がなかなか動いてくれない」
「他の自治体の事例を調べるほど、何が正解か分からなくなる」
自治体でDXを担当する方は、こうした悩みに直面したことがあるかもしれません。
デジタル庁は2026年6月、「疲れないDX推進」をテーマにした勉強会「共創PFキャンプ」を開催しました。「疲れない」とは、手を抜くという意味ではありません。あてのない正解探しに消耗するのではなく、着実に前へ進み、長く続けていく――。全国から集まった自治体職員たちが、そのための知恵を、自らの試行錯誤とともに率直に語り合いました。
実践事例を紹介した栃木県真岡市役所(デジタル戦略課デジタル政策係長)の石崎努氏は、成功事例ではなく自らの失敗経験を語りました。うまくいかなかった経験にこそ、次への学びがある。石崎氏がたどり着いたのは、「正解は外に探すのではなく、自分たちのつまずきを見つめるところから始まる」という考え方でした。
どこでつまずき、何を学んだのか。「疲れないDX推進」のヒントが詰まった石崎氏の登壇内容を紹介します。
「疲れないDX推進」のヒントは、失敗経験の中にある

(登壇する真岡市役所の石崎努氏)
真岡市役所デジタル戦略課の石崎です。これまで情報部門に17年携わり、直近の5年はDX担当として電子申請・電子決裁・オンライン申請・業務改善・人材育成に取り組んできました。
「DXの推進」と聞くと、成功事例や便利なツールを学ぶことが大切だと思われがちです。しかし実際には、他の自治体の成功事例を紹介するなどして現場に働きかけても、なかなか動いてもらえない場面があります。
そこで今回は、成功事例ではなく私自身の失敗経験をもとに「疲れないDX推進」の考え方をお伝えしたいと思います。少し格好の悪い話も出てきますが、ぜひ何か持ち帰っていただければ幸いです。
DXの“正解”は与えられるものではなく、自ら設計するもの

(石崎氏提供資料より)
今、自治体の仕事は根本的に変わりつつあります。これまでは「正解を、正確に実行すること」が中心でした。制度やマニュアルがあり、それに従えばよかった。ところがDXでは、正確さを前提としながらも、このようにやればよいという正解がありません。
人口規模も組織体制も職員数も違う以上、他の自治体でうまくいったやり方が自分たちにそのまま通用するとは限りません。最適なやり方は、自分たちの組織や業務、実際の現場に合わせて、イチから設計し直す必要があります。

(石崎氏提供資料より)
とはいえ、正解がないと分かっていても、つい外に探したくなるものです。ところが、情報が増えれば増えるほど、どれが正解なのか分からなくなっていく。AIが瞬時に大量の選択肢を示してくれる今はなおさらです。

(石崎氏提供資料より)
では、何を手がかりに進めればよいのでしょうか。
私がたどり着いた答えは「自分たちの失敗」です。うまくいかなかったことには、必ず理由があります。その理由を見つめることで、次にどう進めばいいかが見えてくる。
正解を外に探し続けるのではなく、自分たちのつまずきを見つめる。これが、「疲れないDX推進」の出発点だと考えています。
もちろん、失敗は誰しもできれば隠したいものです。行政には「無謬性」――「誤りを犯さない」ことが求められるという考え方もあり、なおさら表に出しにくい。それでも、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉があるように、失敗には構造的な理由があります。だからこそ、失敗を分析することに価値があるのです。
ここでは私が経験した二つの失敗エピソードをご紹介します。DX担当が疲れやすい「失敗パターン」として持ち帰っていただければと思います。
失敗1:電子化したのに、業務の負担が増えた

(石崎氏提供資料より)
一つ目の失敗は、数年前に電子決裁システムを導入した際の話です。
当時の私たちは、「紙も印鑑も持ち回りも減る、進捗も見える化できる」というメリットばかりに目が向き、深く検討しないまま導入を進めてしまいました。
ところが、現実はそう単純ではありませんでした。紙と電子の二重運用が残り、書類の取り扱いルールが曖昧になり、決裁に必要な情報も見えにくくなった。現場は混乱し、戸惑いの声が相次ぎました。
なぜ、こんなことが起きたのか。
それは、人の手が曖昧さを吸収していたからです。紙の時代には、誰かが気を利かせて書類を補足・修正したり、対面で足りない情報を説明したり。このような「暗黙のルール」が、業務を回していました。
ところが、システムは正直です。紙の流れをそのまま電子に置き換えると、これまで人がカバーしていた曖昧さや非効率が、そっくりそのまま「使いにくさ」として表面化してしまう。私たちは、その落とし穴にはまっていたのです。

(石崎氏提供資料より)
うまくいかなかった原因は、次の四つに整理できます。
1目標と現状把握の欠如: 「効率化された状態」とはどんな状態なのか、メンバー間で共通認識を持たないまま進めていました。
2規程・ルールの未整備: 電子化に合わせてルールを見直すべきところを、昭和の時代につくられたルールのまま、令和のツールを導入しようとしていました。
3自己目的化: 手段にすぎない電子決裁の「導入」が、いつの間にか目的になっていました。
4 部分最適: 業務の特定の部分だけを効率化した結果、全体としてはかえって不都合が生じていました。

(石崎氏提供資料より)
ただ、これら四つの原因に共通する、より根本的な問題がありました。私たちは「どうやって電子決裁を導入するか」ばかりを考え、「なぜ電子決裁を導入したいのか」を深く問えていなかったのです。
「どうやって導入するか」を問うと、「紙を減らす」「印鑑を減らす」「機能を揃える」といった答えが出てきます。もちろん、どれも必要なことです。しかしそれだけでは、紙の時代の問題を、そのまま電子に持ち込んでしまう。
そこで一度、抽象度を上げて考えました。そもそも「決裁」とは何か。判断に必要な情報は何か。これまでの慣行は本当に必要か。そこまで立ち返って初めて、「電子化で本当にやるべきこと」が見えてきたのです。

(石崎氏提供資料より)
電子化はゴールではなく、業務を見直すきっかけの一つです。紙を画面に置き換えただけでは、DXとは言えません。紙でなんとなく回っていたものが、電子にすると回らなくなる。これはシステムが悪いのではなく、業務ルールや判断の意味が定義されていないからです。
見直すときは、「何を判断しているのか」「どのような情報が必要か」「誰が、どの段階で意思決定するのか」を確認すること。そして、「手段」で迷ったときは、「目的」に一度立ち返ること。目的・目標・手段を何度も行き来することで、判断がぶれなくなります。
これが、この失敗から得た教訓です。

(石崎氏提供資料より)
失敗2:良かれと思った提案が、現場に届かなかった

(石崎氏提供資料より)
二つ目の失敗は、あるオンライン申請の導入をめぐる話です。「住民にとっても、職員にとっても良くなるはずだ」と考え、さまざまな課へ働きかけました。ところが、話がなかなか前に進まない課もありました。
こうした状況に直面すると、「なぜ分かってくれないのか」「やる気がないのか」と、つい相手側に原因を求めたくなります。しかし、それでは互いの溝が広がるばかりです。

(石崎氏提供資料より)
この経験から学んだのは、「相手を変えようとするのではなく、自分の関わり方を変える」ということです。「こちらが正しい」と押し切ろうとすれば、相手は反発するばかり。必要なのは、相手をコントロールすることではなく、伴走することでした。
まずは現場の不安を解消する。その上で、話すタイミングや相手の理解度を確認しながら、一緒に進めていく。そうした積み重ねは、実は遠回りではありません。
私は「組織の2割が変わると、全体が変わる」と考えています。仕事は、人と人との関係で成り立っています。相手が変わらなくても、自分が変われば、関係性の半分は変わる。ゼロから相手を動かそうとするより、ずっとうまくいくことが増えるのです。
それを実感したのが、朝礼をめぐる出来事です。私がいる市役所のフロアには七つの課があり、それぞれ定例の朝礼を実施していました。私の課では2年前に朝礼をやめましたが、今年になって別の課も同じ判断をすると、2カ月のうちにフロアのすべての課が朝礼を取りやめました。二つの課が動いただけで、フロア全体が変わったのです。

(石崎氏提供資料より)
まとめ:止まらなければ、失敗は学びになる
今回の二つの失敗からお伝えしたかったのは、「正しい問いを立てること」と「人につまずいたら、関わり方を変えること」です。
失敗は、そこで立ち止まれば失敗のままです。しかし、うまくいかなかったということは、もっと良い方法があると分かったということでもあります。チャレンジする前より、確実に前進している。だからこそ、失敗を学びにしていきましょう。
失敗から学ぶことで、次の成功の確率は上がっていくのです。

(石崎氏提供資料より)
●今回の勉強会では、GovTech東京・岐阜県下呂市・総務省も登壇しました。全体レポートは以下の記事をご覧ください。
お知らせ:共創PFでは参加者を随時募集中

(共創PFキャンプ in デジタル庁『疲れないDX推進』を考える編の様子)
デジタル改革共創プラットフォーム(共創PF)では、ビジネスチャットツールのSlackを利用し、国と地方の垣根を越えて日々の悩みから政策立案まで気軽に相談・情報共有できます。地方公共団体と政府機関の職員であれば誰でも参加でき、1,530の地方公共団体から約1万3,300人、38の政府機関から約2,100人が参加しています(2026年3月末時点)。
業務や政策テーマごとにチャンネルを開設しており、随時参加者を募集中です。ご参加をお待ちしております。
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