住民を待たせない窓口へ。先進自治体に学ぶフロントヤード改革・窓口DXの理論と実践(共創PFキャンプ)
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デジタル庁は2026年1月、長野県長野市でオフラインの勉強会「共創PFキャンプ in甲信越 フロントヤード改革・窓口DX編」を開催しました。
地方公共団体と政府機関の職員が自由に意見を交わせるオンライン上のコミュニティ「デジタル改革共創プラットフォーム(共創PF)」(デジタル庁が運営)では、オフラインの勉強会「共創PFキャンプ」を全国各地で随時開催しています。 今回は甲信越地方を中心に19団体、38名の職員が参加しました。
勉強会では、総務省・デジタル庁による改革の背景と支援策の解説を踏まえ、長野県による県内77市町村へのDX伴走支援の取組と、窓口DXの先進自治体の一つである静岡県裾野市の実践事例が紹介されました。また、参加者同士のワークショップも行われました。この記事では、各登壇者の発表内容の一部を紹介します。
<目次>
人口減少時代に求められる自治体フロントヤード改革 推進手順書が示す改革のポイント(総務省)

(総務省自治行政局市町村課行政経営支援室の岡野航大氏)
自治体フロントヤード改革について

(自治体フロントヤード改革の概要[イメージ]/総務省)
自治体フロントヤード改革を推進する背景には、多くの地方公共団体において少子高齢化・人口減少が進み、行政資源が制約されていく一方で、行政に求められる役割が多様化・複雑化していることがあります。
住民サービスの利便性向上と業務効率化を進め、企画立案や相談対応への人的資源のシフトを促し、持続可能な行政サービスの提供体制を確保するために、自治体フロントヤード改革を進めていく必要があります。
こうした中で、2025(令和7)年5月30日には「自治体フロントヤード改革推進手順書」を策定しました。また、同年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」や自治体が重点的に取り組むべき事項・内容を具体化するとともに、総務省及び関係省庁による支援策等を取りまとめた「自治体DX推進計画【第5.1版】」(令和8年1月30日)にも、フロントヤード改革の推進が明記されています。
人手を介さないデータ連携で、業務効率化を

(自治体フロントヤード改革が目指すものと総務省の取組/総務省)
フロントヤード改革の目指す姿は「住民の利便性向上と業務効率化」です。手続は原則オンライン申請で完了させ、来庁を希望する方には予約システムで待たせない対応をとるとともに、窓口での手続を書かない窓口・ワンストップ窓口で最小限にする。そして、申請されたデータを、人手を介さずに各システムに連携することで、職員の業務効率化につながると考えています。
改革は「デジタル化」だけではない、まずは業務の見直しを
自治体フロントヤード改革推進手順書から、改革を進めるに当たってのポイントを三つ挙げさせていただきます。
- 体制構築: 首長の強いリーダーシップや窓口職員の理解等、窓口部門・デジタル部門・企画部門等が全庁一丸で取り組む体制の構築が不可欠です
- 現状分析に基づいた取組の選定: デジタルツールを導入する前に、住民・職員双方の課題を把握し、業務フローを解析することが重要です
- 既存業務・業務フローの見直し: 見直しをせずにデジタルツールを導入すると、紙申請とオンライン申請で別々の業務フローとなり、職員の業務効率化につながらない結果になりかねません
フロントヤード改革の取組効果は、自治体の事例からも見えてきます。三重県志摩市では書かない窓口システムと併せて自治体アプリを使い、住民情報システムと連携し事前に必要情報を入力しQRコードを窓口端末にかざすだけで申請書を発行できる仕組みを導入した結果、証明書発行事務が効率化され、窓口滞在時間が緩和するなど、職員の作業時間が1,950時間削減されました(自治体フロントヤード改革に関する個別取組事例集P5)。
(※)令和5年度補正予算自治体フロントヤード改革モデル団体の静岡県裾野市の取組については記事後半で紹介します。
また、令和7年度からは「デジタル活用推進事業債[PDF] 」が新設されました。書かない窓口システムやオンライン申請システムの導入初期経費等が対象です。フロントヤード改革に関するシステムの導入を検討される際はぜひ活用ください。
窓口DXのキーワードは「共創」「楽しく」「一貫してやる」(デジタル庁)

(デジタル庁デジタル社会共通機能グループ窓口DX推進チームの谷吉郎参事官補佐)
私たちデジタル庁が描く窓口DXの姿は、「職員も市民もハッピーに」。住民の利便性向上はもちろんですが、それだけではなく、窓口改革を通じて職員の業務負担の削減も実現するものです。
住民の利便性だけでなく、職員が楽になる姿を目指す。そのために窓口改革に取り組んでいる自治体が得たさまざまな知見や経験を自治体同士で共有し、共創しながら、最終的に全国の窓口が進化していく。そんな姿を目指しています。
BPR支援と窓口DXSaaSの二本柱 デジタル庁が提供する支援策
自治体の窓口DXを加速させるためにデジタル庁は二本柱で取組を行っています。一つは業務改革(BPR)の支援、もう一つが自治体窓口DXSaaSの提供です。

(デジタル庁の取組/デジタル庁)
BPR支援では、窓口改革を先行して実施した自治体職員に「窓口BPRアドバイザー」になっていただき、改革に意欲がある自治体のBPRの土台づくりをサポートしています。
そして支援を受けて改革が進んだ自治体の職員に新たにアドバイザーになっていただき、他の自治体を支援する好循環が生まれることを目指しています。
●窓口BPRアドバイザー派遣事業の詳細は、以下のリンクをご確認ください。
- 窓口BPRアドバイザー派遣事業|デジタル庁(※外部リンク)

(BPRのプロセス/デジタル庁)
BPRのプロセスはフェーズ1(窓口利用体験調査による現状把握)、フェーズ2(アナログ手法による改革)、フェーズ3(システム導入)の3段階で、本事業ではフェーズ1・2までの自走のきっかけづくりを支援しています。
フェーズ1の窓口利用体験調査では職員が住民役となって窓口を体験し、良かったところや改善の余地があるところを把握します。その後のワークショップで理想の窓口の姿を話し合い、今後の取組の方向性について、報告会を通じて組織全体で共有します。
フェーズ2では、取組の方向性に基づいて、アナログ手法で出来ることから少しずつ、一貫して改善を進めます。
その一つひとつの改善が窓口業務全体の改革へと繋がっていき、その結果、デジタルツールの導入が必要となった場合はフェーズ3へと進みます。そのフェーズ3で活用を検討していただきたいのが、窓口DXSaaSです。

(自治体窓口DXSaaSの概要/デジタル庁)
窓口DXSaaSはデータを活用して窓口業務を効率化するサービスで、ガバメントクラウド上で9社から提供しています。自治体は自らが描く理想の窓口にマッチするサービスをそのなかから選択する仕組みとなっています。
●自治体窓口DXSaaSの詳細は以下のリンクをご確認ください。
- 自治体窓口DXSaaS|デジタル庁(※外部リンク)
デジタル庁の窓口DXのキーワードは「共創」「楽しく」「一貫してやる」。課題を把握し、解決し、楽しいと感じてもらい、またそこから課題を把握する好循環を起こしていけたらと思っています。
「目指す姿」の設定から始める県内各自治体への支援戦略(長野県)

(長野県企画振興部DX推進課スマート自治体推進係の川口友輔氏)
多様な市町村が集まる長野県、フロントヤード改革の現在地は
長野県には77の市町村があります。北海道に次いで全国2位の数で、言い換えると77通りの窓口事情があるということです。面積も全国4位で縦に長く、地理や生活圏、行政の需要も各市町村によって異なります。そのため、ひとくちに「窓口改革」といっても打ち手が変わってきます。

(県内市町村におけるフロントヤード改革の取組状況/長野県)
今年度(令和7年度)、県が市町村を支援するにあたって、ツールの導入や具体的な取組に着手する前に、「どんな窓口にしたいか」という目指す姿を各団体で描いてもらうことにしました。
令和7年8月に長野県が実施した調査では、県内77市町村のうち約8割がフロントヤード改革に取り組み中または取組予定と回答しました。一方で、実施にあたっての課題も多くあります。

(県内市町村のフロントヤード改革推進における課題の整理/長野県)
課題は大きく三つです。
一つ目は「リソース不足」。77市町村のうち1万人以下の自治体が43団体あり、そのうち1,000人以下が7団体あります。人材確保などの優先課題が他にあって、窓口改革に手が回らない状況があります。
二つ目は「合意形成」。担当課・財政・幹部・議会・住民など、限られたリソースの中で関係者の理解と協力を得ることが大変です。
三つ目は「知識・ノウハウ不足」。費用対効果がどれくらい出るのか、何から始めればいいかわからない、という声が多く聞かれます。

(県・市町村が連携したDX推進体制/長野県)
CIO懇談会から共同調達まで、多層的な支援体制を構築
こうした課題への打ち手として、県では首長レベルで方向性を合わせるCIO懇談会の他にも様々な取組を展開しています。
まず、県内の全市町村と広域連合、一部事務組合で構成する先端技術活用推進協議会の枠組みを活用し、共同での勉強会や事例研究、システムの実証に取り組んでいます。最終的には共同調達も目指しています。
先端技術活用推進協議会においては、毎年テーマごとに検討チームを組成する自治体行政DX推進ワーキングも実施しています。今年度は生成AIに関するワーキングと、特定のツールに限定しない勉強会ワーキングを実施しました。
さらに、長野県独自の取組として、県で一括確保したデジタル人材を、希望する市町村へ派遣し、DXの推進や課題解決に向けた伴走支援を行う「市町村DX推進支援事業」も実施しています。
こうした支援体制をさらに強化するため、先端技術活用推進協議会に今年度新たにフロントヤード改革検討部会を設置しました。DXを円滑に推進する体制が十分に確保できていない小規模市町村も含めた全市町村を対象に、事例研究やシステム実証に取り組むための場です。
「目指す姿」の設定を通じて、業務体制のあり方を見直す機会に

(フロントヤード改革検討部会:取組概要(令和7~9年度)/長野県)
今年度のスケジュールは、6月の全体会で推進体制を共有し、7月・9月に検討部会を開催。推進方法に関する勉強会や目標イメージの共有を経て、下半期には各市町村に「目指す姿」の作成を依頼しました。
「目指す姿」の作成にあたっては、県でフォーマットを用意しました。本勉強会にも登壇いただいた裾野市の目指す姿が総務省の推進手順書に掲載されており、それを参考に作成したものです。
フロントヤードの改革は、単なる窓口業務のデジタル化にとどまりません。バックヤードの改革や業務プロセス全体の見直しなど、既存業務をいま一度洗い出して整理することも大切です。デジタルだけでなく、動線やレイアウト、空間整備も含め、各団体の実情に合わせて作成いただくようお願いしています。
「目指す姿」の設定・作成を通じて、各市町村が業務体制を見直すきっかけになればと思っています。ただ、提出は任意であり、「改革を強制する」ものではありません。
今後、職員数の減少が見込まれる中、「自分たちの窓口をどうするか」を考える機会にしていただければ十分です。人口規模や来庁者数などを踏まえて検討した結果、費用対効果の観点からフロントヤード改革に取り組まないという選択も、もちろんあります。その場合は、限られたリソースを他の改革に充てていただければと思っています。
2026(令和8)年度以降は、各市町村の進捗に応じてテーマ別ワーキングや事例研究、共同調達を実施し、各市町村が効率的に改革を実行できるよう支援していきます。各団体の負担をできるだけ軽減しながら、自分たちの実情に合わせてフロントヤード改革を前に進められるよう、県としても引き続き伴走していきます。
アナログ見直しとデータ活用で挑む"市民も職員も幸せな窓口"の実現(裾野市)

(静岡県裾野市健康福祉部総合福祉課地域福祉係の勝又優斗氏)
静岡県裾野市の勝又です。デジタル庁の窓口BPRアドバイザーと共創PFアンバサダーを務めています。
裾野市では「市民も職員も幸せに」のスローガンのもと、アナログ改革・窓口BPRに着手してきました。
きっかけは2022(令和4)年のゴールデンウィーク谷間の平日でした。来庁者が多すぎて、90分以上の待ち時間が来庁者の2割を超える事態に。市民向けの公式LINEで事実上の来庁自粛を呼びかける、いわば白旗をあげるような状況でした。この状況を受けて、窓口改革に向けた取組が始まりました。
当時、市民窓口は外部業者に委託していましたが、BPRを自分たちで推進するためには、時間的にも技術的にも職員自らが動かなければならないと判断。2024(令和6)年4月1日から9年間の窓口委託を終了し、直営化しました。
窓口体験調査で現状把握、アナログ改革から着手

(体験調査の概略/裾野市)
アナログ改革の第一歩として取り組んだのが、窓口BPRアドバイザー派遣事業を活用した窓口体験調査です。
新規採用の職員が市民役になりきって窓口を評価したところ、説明40%、記入25%、待ち時間35%という内訳が明らかになりました。手続を数値化することで、何十回もの氏名記入など、住民が窓口で経験する負担をデータとして把握できました。
体験調査は現在までに3回実施していますが、毎回「書くことが多い」「時間がかかる」という声が上がります。住民の方にとって、市役所への来庁は何年に1回、場合によっては一生に一度という方もいます。その1回の体験が「待たされた」「対応が悪かった」という印象で終わってしまうと、市のイメージにも影響します。
だからこそ、「1回の体験がすべて」という考えのもと日々改革を継続しており、現在は窓口体験調査を新卒採用研修にも組み込んでいます。
アナログ改革では、まず住民異動届の手書き運用を廃止しました。以前は届を書いてもらってから窓口に来る運用でしたが、直接窓口に来てもらうフローに変更。これに伴い記載台を撤去し、フロアを広々と使えるようになりました。単なるツールの廃止にとどまらず、業務フロー自体を見直したことがポイントです。
また、手続の抜け漏れを防ぐために7つのライフイベント(転出・転居・転入・結婚・離婚・出生・おくやみ)に対応した手続チェックシートを作成。窓口ウェブ予約発券システムも導入し、予約優先という運用ルールに変更しました。システムを入れるだけでなく、運用方針まで変えたことで、来庁者の待ち時間短縮につながっています。
さらに、ノーコードツールを使って内製した「おくやみコーナー」も開設しました。住民の方が市民課で死亡届を提出すると、各課に情報が連携され、必要な手続をこちらで洗い出すことができるシステムです。住民はワンストップで手続を完結でき、職員側も事前準備ができるため、双方の負担軽減につながっています。
何かを変える際には、市民課・デジタル部・会計年度職員も含めた全員での研修を繰り返し実施しました。
データ活用で満足度を可視化、職員のモチベーションアップにも

(“頼りになる窓口”実現に向けた取組/裾野市)
アナログ改革と並行して、令和5(2023)年度のフロントヤード改革モデルプロジェクトにも参加しました。
この時は、「頼りになる窓口」をありたい姿として掲げ、理想の姿を実現するための五つの要素「行かなくても済む」「行ってもすぐ終わる」「待っても苦にならない」「安心して相談できる」「次の時には改善されている」を示しました。
推進にあたっては、市長や幹部らトップ層を含む庁議を第1階層として全4階層の推進体制を構築しました。
また、データ連携による書かないワンストップ窓口の運用を開始し、「手続ゾーン」「相談ゾーン」「くらしゾーン」の3ゾーンにフロアを再編しました。窓口のカウンター数は以前より減りましたが、データ上でも全件対応できていることが検証されており、削減と効率化を両立しています。
満足度の計測には、来庁した利用者への直接アンケートとネットプロモータースコア(NPS)を活用しています。改革前と比べて満足度は大幅に上昇し、現在は77という高スコアを記録。「短く感じた」「楽に感じた」という回答が増え、接遇面・対応面への好評価も多く届いています。
アンケートでは良い評価もいただき、こうした評価の可視化が職員のモチベーションアップにつながっています。職員が内製した「押すだけアンケート」も活用しており、顔マークのボタンを直感的に押せる仕組みが好評です。押してくれる瞬間を職員が見ることもあり、こうしたことが日々の励みにもなっています。
これらの結果はフロアの大型ディスプレイにも表示し、市民・職員双方に可視化しています。やればやっただけ結果が出る。その実感が、改革を続ける原動力になっています。
これから改革を進めようという自治体の方は、ぜひ視察にいらしていただければと思います。
お知らせ:共創PFでは参加者を随時募集中
デジタル改革共創プラットフォーム(共創PF)では、ビジネスチャットツールのSlackを利用し、国と地方の垣根を越えて日々の悩みから政策立案まで気軽に相談・情報共有できます。地方公共団体と政府機関の職員であれば誰でも参加でき、1,495の地方公共団体から約1万2,500人、39の政府機関から約2,200人が参加しています(2025年10月1日時点)。
業務や政策テーマごとにチャンネルを開設しており、随時参加者を募集中です。ご参加をお待ちしております。
●共創PFに関する情報は、以下のリンクをご覧ください。
- デジタル改革共創プラットフォーム|デジタル庁(※外部リンク)