下水道管を球体型カメラ装置で点検、利府町の官民連携に学ぶインフラ維持管理デジタル化のヒント
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近年発生した大規模な道路陥没のような事案を未然に防ぐため、国では下水道管路の維持管理方法の見直しを進めています。
宮城県利府町では官民が協力して上下水道管の維持管理に取り組み、デジタル技術を活用した業務効率化を推進しています。その一つが、小型カメラを搭載した球体型装置を下水道管路に流して内部を撮影し、詳細な調査が必要な箇所を特定する取組です。
デジタル庁ニュースでは、利府町の担当職員と町が委託契約を結ぶ事業者に、取組の背景や狙いについて聞きました。記事末尾では地方公共団体や事業者の方向けに法定業務へのデジタル技術活用に関する資料を紹介しています。あわせてご覧ください。
(※記事内容は取材当時の情報に基づきます)
<目次>
人口減少時代に上下水道事業をいかに守るか。利府町は「包括的民間委託」を選んだ

(利府町上下水道課の佐藤主任(左)と大平主事(右)(※所属・職名などは取材時のものです))
宮城県利府町は仙台市に近く、同市のベッドタウンとして人気の町であり、10年ほど前から人口は横ばい傾向にあります。そうした中、上下水道事業は以下のような大きな課題に直面していました。
【利府町が直面する上下水道事業の課題】
・技術承継の危機:
平時・災害時を問わず安全で安定的な水の供給が求められる中、異動や定年退職などにより技術や業務を熟知した技術系ベテラン職員の離任が続く一方、電気、機械などの技術職の新規採用が難しい状況が続いている。
・料金収入の減少:
節水意識の定着や物価の高騰、人口減少などにより水需要の伸びが鈍化しており、収益の増加が期待しづらい構造にある。
・膨大な維持管理費用:
管路や施設の耐震対策・改築更新に多額の維持管理費用がかかる。
町として効率的な行政運営が求められる中、上下水道事業には人材・収益・維持管理費用という三つの課題が同時に重くのしかかっています。
上下水道事業には住民の安心・安全を担保する社会的責任も求められます。万が一、漏水や管路内でガス発生による腐食が起こり道路陥没などの事故につながれば、住民生活に大きな影響を及ぼすためです。
突発的な点検・調査や修繕にはその都度の調達が必要です。
ところが、施設の維持管理や漏水調査、漏水修繕などについては、業務ごとに毎度個別に調達しなければならず、その度の入札や契約の事務への対応が町職員の大きな負担となっていました。
利府町上下水道課の大平慎太朗主事は、上下水道事業への危機感をこう説明します。
「以前に比べて、上下水道課の職員が技術的・知識的にも不足していることは否めません。このままだとサービスが低下しかねない状況でした」
「また、年度ごとの個別委託の繰り返しでは職員にノウハウや経験が蓄積しづらいです。このまま何の対策もしなければ上下水道事業の継続は困難だと考え、他自治体の先進的な取組を学び、視察を重ねながら対策を検討しました」(大平主事)
検討の結果、利府町は、都度生じる入札や契約の事務を簡略化し効率的に対応するため、上下水道事業について個別委託から包括的民間委託へ変更することに踏み切りました。これにより、維持管理、料金徴収・窓口関係など業務全体を一括で事業者に委託できることから、経費削減だけでなく、より機動的な対応を取れる体制を整えました。
公募の結果、2025年4月から「Rifレックス」(水コンサルタント大手の日水コンなど4社で構成される特別目的会社)と10年間の包括的民間委託を開始しました。これは「ウォーターPPP」(上下水道事業等における官民連携の仕組み)における管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5)を上下水道一体で適用した全国初の事例となりました。
包括的委託によって生じた長期の提携により利府町は様々なメリットを得ました。例えば、点検・調査はこれまで個々の点検・調査ごとに見積依頼・発注後に道路占用許可を取得して作業に当たっており、実施まで3~4か月かかっていました。現在は、包括的委託の結果、個別の発注業務がないため、その実施までを1か月程度に短縮できました。
「実施までの期間を短縮できることで、問題の早期発見にもつながります。都度の契約締結も不要となり、職員の業務時間も減らせました」(大平主事)
「手軽で誰でも使える」球体型カメラ装置の開発背景とメリット

(日水コンの前田千夏氏(左)、Rifレックスの庄野貴英氏(中央)と大住英俊氏(右))
球体型カメラ装置は電機メーカーの協力のもと、Rifレックスの代表企業である日水コンが開発しました。現在、日水コンが受託する地方公共団体の下水道管路の点検に一部活用を始めています。
装置の開発プロジェクトをリードした日水コンの前田千夏氏は次のように説明します。
「7~8年前、開発に着手しました。下水道管路の将来的な老朽化に対して、点検・調査を効率化できないかと考えたためです。手軽で簡単に、誰でも実施できるという観点で検討を進めてきました」
下水道管路の維持管理では、「巡視」「点検」「調査」 (※) で状態を把握します。
(※) 「巡視」「点検」「調査」:巡視では、マンホールや管路が埋設された道路の状態を確認する。点検では、管路の内部を確認するが、調査に比べて簡易的な実施にとどまる。調査では、異状箇所の状態や大きさなどを詳細に調べる。
従来の点検手法にはそれぞれ一長一短がありました。主にマンホールから差し込む「管口カメラ」は内部を精度高く撮影できる一方、高額かつ手配に時間を要します。ドローンは水流の多寡に影響されない半面、操縦スキルが必要です。
目視でも実施しますが、細い管路や強い水流、深い水深のある区間は人が立ち入れません。また、交通量が多い道路下の管路を点検する場合、マンホールを開けるための交通規制も一苦労です。
球体型カメラ装置はそうした従来の手法を補い、手軽で迅速な点検を担う役割が期待されています。管路の水流に乗せて内部を撮影する際、投入口と回収口となるマンホールを開けるだけでよく、途中のマンホールは開けずに対応できます。一度の投入で通常600~700mを点検でき、マンホールを開ける枚数を抑えられます。
点検には調査対象となる管路の区間を絞り込み、効率的な調査につなげる狙いもあります。Rifレックス利府事務所統括管理責任者の庄野貴英氏は次のように説明します。
「調査を実施しても空振りすることはあります。この球体型カメラ装置などで異状箇所を見つけられれば、非常に効率が上がります」(Rifレックス・庄野氏)
装置を水流に乗せるだけなので特別な操作スキルは不要です。比較的安価なため、装置を購入して庁舎に常備しておけば、災害などの緊急時に利府町の職員自らが迅速に点検に取り掛かれます。
実機のテスト映像を見た利府町の佐藤真智主任は 「管路の内部がきれいに映っていました。流速もそこまで速くなく、見やすく感じました」 と振り返ります。同町の大平主事も 「この装置を導入することで、以前よりきめ細かく点検できることを期待しています」 と話します。
上記に加えて、球体型カメラ装置について、見直された規制の中でも使えるようにし機動的で柔軟な点検手法として定着させるため、球体型カメラをアップデートするなど、利府町と事業者は導入に向けた創意工夫を続けています。
管路を流れながら内部撮影。現場で見えてきた改良点

(球体型カメラ装置)
水流に乗せるだけ。管路の破損や詰まりを確認
「はい、流します」
2026年2月、宮城県利府町。マンホールを伝って下水道管路の脇に降りた作業者が、掛け声とともに球体型カメラ装置を水流に乗せました。
直径12cmの装置が、直径45cmの下水道管路を下流側に進んでいきます。

(球体型カメラ装置を、下水道の水流に乗せようとしている様子(※安全管理上から水面浮遊時の撮影不可により、マンホール開口時のもの))
カメラを内部に組み込んだ装置は、LED照明で管内を照らしながら管路内の様子を動画撮影します。
約10分後、50メートル離れた下流側のマンホールの下に装置が姿を現しました。装置を回収し、かごに載せて引き上げれば、現場での作業は終了です。

(球体型カメラ装置を下水道管路から回収している様子)
事務所に戻り、回収した装置からSDカードを取り出し、管路の破損や木の根などによる詰まりの有無を動画で確認します。

(球体型カメラ装置で管路内を撮影した映像のキャプチャ画像。ライトに照らされたコンクリート管の頂部(中央、白色箇所)と側面(上下、黒色箇所)の様子が確認できる/Rifレックス提供)
より精度の高い点検を目指して試行錯誤
装置は開発中のため、改善に取り組んでいます。水流まわりでは、装置を流す仕組み上、一定の水量が必要ですが、水流が強すぎると撮影アングルが安定しません。水流の影響を抑えるため円盤状のつばを付けるなど、水流の速度や水深にも留意して試行錯誤を続けています。
照明まわりでは、照明の強さや当て方次第で光の乱反射が生じてしまい、撮影した映像が見えづらくなる場合があります。この日はLEDの光量が異なる装置を二つ用意し、管路の直径とのバランスを確認しました。

(左:円盤状のつばを付けた装置/右:LEDを追加搭載した同型の装置)
異状箇所の特定については、開発当初は装置にGPSを搭載し、損傷が疑われる箇所を特定しようと試みましたが、地下の管路内では電波状況が安定しませんでした。現在は加速度計とジャイロセンサーを搭載して速度と傾きを測定し、映像内の秒数と突合して異状箇所を特定する方法に切り替えました。
日水コンは、引き続き装置の改良を重ねていく方針です。
管路台帳システムを導入、AIによる損傷判定も開発中

(管路台帳システムのキャプチャ画像/Rifレックス社提供:Google Maps(許諾番号 Z15DL第1243号)※Google MapsはGoogle LLCの商標または登録商標です。)
球体型カメラ装置と並行して、利府町は管路台帳システムの導入準備も進めています。設備や施設の維持管理に関する情報を一元管理できるクラウド型のデータベースです。
これまでは点検・調査の報告書や管路台帳を紙ベースで管理しており、現場の状況や過去の修繕実績を調べる際に大変な手間がかかっていました。
導入したシステムでは、地図上に下水道管路の図面をマッピングしており、点検・調査済の箇所の色分けや実施時期を地図上に表示、点検・調査実績の一覧出力が可能です。タブレットやスマートフォンからいつでもアクセスでき、点検・調査現場で情報を入力することもできます。
これにより設備や施設ごとの老朽化状況や修繕の実施可否などの情報を、直感的かつリアルタイムで把握できるようになりました。
球体型カメラ装置で撮影した映像をシステムに反映することも検討しています。また、撮影映像から損傷箇所をAIで判定する仕組みの開発にも取り組んでおり、現在、判定精度の向上を進めています。
利府町の大平主事は 「上下水道課の職員はDXに前向きで、球体型カメラ装置についても業務効率の向上が期待できるため新しい技術を取り入れてやってみようと好感触でした」 と振り返ります。
「(利府町上下水道課では)国土交通省や宮城県庁が主催するDX関連の説明会やイベントに積極的に参加しています。前例踏襲ではなく、自ら学んでいく姿勢が大切だと思うからです。他の自治体の皆さんも、新しい取組や変化を恐れず、ぜひ挑戦してほしいです」(大平主事)
職員の技能・知識の空洞化を防ぐため、委託事業者との勉強会や講習会を実施しています。ここでは日頃の疑問から工事手法、部材に使われる素材に至るまで、幅広いテーマを取り上げています。
加えて、 「包括的民間委託のコンセプトは、行政が持つノウハウと民間が持つノウハウの相互補完にあります」 と大平主事。より良い水道事業の運営のため、利府町上下水道課は挑戦を続けていきます。
使えるデジタル技術は「テクノロジーマップポータル」でぜひ確認を

(テクノロジーマップポータルのトップ画面(キャプチャ))
目視確認や書面対応などアナログ的な手法により、業務へのデジタル技術の活用が妨げられているケースがあります。
デジタル庁ではこのような「アナログ規制」の見直しを、各府省庁と連携して進めています。これまでに見直し対象となった国の法令等のアナログ規制では、ほぼすべての見直しを完了。これにより、様々な分野で、新しい技術を含めた多様なデジタル技術の活用が可能となりました。
また、こうしたデジタル技術を「テクノロジーマップ」「技術カタログ」として整備し公開しています。
さらに、地方公共団体や事業者の方に、ご自身の業界や分野でどのようなデジタル技術がどのように活用できるのかを知っていただけるよう、建設・建築業界と下水道分野での法定業務の実務で使えるデジタル技術について、導入事例やその効果、関連法令などを整理して公開しています。ぜひご活用ください。
◆「アナログ規制の見直しとデジタル技術導入に向けたポイント・効果-法定業務の実務で使えるデジタル技術- (建設・建築業界編/下水道分野編)」
建設・建築業界編
下水道分野編
テクノロジーマップ・技術カタログの使い方については、「テクノロジーマップポータル」(※外部リンク)にて手引きや動画で紹介しています。あわせてご覧ください。
デジタル庁では今後も、アナログ規制の見直しとデジタル技術の実装の好循環が生まれるよう取組を進め、デジタル技術の活用を支援してまいります。
●関連情報は、以下のリンクをご覧ください。
- アナログ規制見直しの取組|デジタル庁(※外部リンク)
- 地方公共団体におけるアナログ規制の見直しの取組|デジタル庁(※外部リンク)
- テクノロジーマップポータル|デジタル庁(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、アナログ規制見直しに関する記事を掲載しています。以下のリンクをご確認ください。
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