中野区職員が自ら開発、「書かない窓口」を実現するMKシステムとは:基幹業務システムの標準化をきっかけに業務改善
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全国の自治体で進む「基幹業務システムの標準化」は、情報システムの移行にとどまらず、業務改善(BPR)の一環として位置づけられています。
東京都中野区の職員は、窓口業務の経験から区民の待ち時間を短くする取組を検討しました。その中で転出証明書に着目。標準化によって新たに記載された二次元コードを用いて、申請書の記入を不要とする「書かない窓口」を実現し、窓口の業務改善につなげました。
今回のデジタル庁ニュースでは、自治体職員たちの気づきと創意工夫を紹介します。
<目次>
自治体の負担軽減と業務改善を目指す「基幹業務システムの標準化」とは

(基幹業務システムの標準化とは)
「基幹業務システムの標準化」とは、業務フローやデータ仕様を共通化し、全国で同じルール・機能を使えるようにする取組です。
これまで自治体では様々な住民サービスを提供するため、情報システムを創意工夫して開発、調達してきました。しかし、自治体ごとにカスタマイズされていることから、維持・管理に個別の対応が必要となり、人的・財政的な負担が大きいという課題がありました。また、自治体間のシステム仕様が異なることで、クラウド活用が円滑に進まないとの課題にも直面していました。
こうした背景から2021年、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」(標準化法、※外部リンク)が施行されました。
●参考: 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁(※外部リンク)
地方業務システム基盤を担当する、デジタル庁デジタル社会共通機能グループ・橘清司参事官は、標準化とその狙いをこう説明します。
「標準化の取組は住民記録、戸籍、地方税等の20の基幹業務に関して、国が策定する全国一律の標準仕様書に基づき、ベンダーが情報システムを開発し、自治体はこれを利用するという形に変える一大プロジェクトです」
「自治体における人的、財政的な負担を軽減し、生み出された余力を、住民への直接的なサービス提供や、地域の実情を踏まえた企画立案業務に注力することを目的としています」(橘参事官)
若手とベテランがタッグを組んで内製開発:「MKシステム」で窓口待ち時間を短縮

(中野区役所の窓口の様子)
中野区は2024年5月に新庁舎へ移転した際、フロアを統合し、転入時に必要な手続を一か所でできるようにしました。手続に来た区民が庁舎内を移動せずに済むようにと取った措置でしたが、一方で、待合スペースはコンパクトになり、区民の待ち時間も発生していました。

(中野区戸籍住民課の岸田主事)
戸籍住民課管理運営係(システム担当)の岸田知樹主事は 「2024年度には約2万6,000人の方が転入手続をしており、繁忙期には2~3時間の待ち時間が当たり前になっていました」 と話します。
課題は待ち時間の短縮だけではなく、申請書への記入負担にもありました。
「中野区は他の自治体と比べても一人暮らしの外国籍の方の転入が多いのですが、日本語が分からないことも多く、申請書に記入する際に時間がかかってしまうこともありました」(岸田主事)
こうした課題を解決するべく、「MKシステム」が開発されました。従来のように手書きすることなく、転入関連の申請書を自動で作成・印刷するシステムです。

(MKシステムを用いる窓口)
標準化によって、転出証明書には新たに二次元コードが記載されました。MKシステムではこの二次元コードを読み取り、転入時に必要な、氏名や住所などの情報を自動で取り込む仕組みにしました。
このシステムは、入庁4年目の若手職員である岸田主事が発案。窓口業務の経験から、二次元コードを分析し自動で情報を転記するシステムを作れないか、アイデアを練っていきました。
岸田主事は、総務部DX推進室デジタル政策課の「DXなんでも相談」にアイデアをもとに相談を持ち掛けました。
DXなんでも相談は所管課が抱える業務の課題を、デジタルツールなどを活用して解決するために支援する事業です。ヒアリングをもとに相談メンバーで検討した解決策を提案し、現場での運用とすり合わせながら実現に向けて進めていきます。
岸田主事のアイデアを形にしたのが、デジタル政策課の森本直樹主査です。相談メンバーの一人で、庁内システムを担当するベテラン職員です。

(中野区デジタル政策課の森本主査(左)と戸籍住民課の岸田主事)
森本主査は岸田主事からの相談を振り返り、 「このシステムは実現する価値が非常に高いと思いました。区民の方の役に立ちますし、成果が分かりやすいためです」 と話します。
若手職員とベテラン職員のタッグでシステムの要件定義や開発を進め、開発着手から3か月という短い期間でシステム運用を開始しました。

(MKシステムでは3ステップで完結する)
完成したシステムは、
(1)二次元コードの読み取り
(2)書類の自動印刷
(3)サインをして受付
の3ステップで完結するように工夫しました。
岸田主事は 「システムは、知識があまりなくても気兼ねなく使える作りにしました」 と狙いを説明します。対応する職員の操作性も考慮し、二次元コードの読み取りと、タッチペンでの操作のみとしました。Excel のマクロを活用して完全内製で開発したため、開発費用をかけずに実現できたことも特徴です。
森本主査と岸田主事の名字の頭文字から命名された「MKシステム」で、中野区は「書かない窓口」の実現に向けて大きな一歩を踏み出しました。
森本主査は 「アイデアをまとめて形にして実現するような仕組みが、組織の内部にあることが大事だと思います」 と強調します。
区民も職員も負担が減った。全国発表会で最優秀賞を受賞したモデル事例に

(転出証明書の二次元コードを読み取る様子(※データは全てダミーです))
現場にはどのような変化があったのでしょうか。岸田主事は 「区民と職員の双方の負担を改善できたのが一番大きいです」 と説明します。
「区民の方にとっては、記入による負担が圧倒的に少なくなりました。基本的には署名のみで申請書の作成が完了するためです。名前しか書かずに済んだため、とても楽だったとのお言葉をいただきました」
「職員にとっては、審査のスピードが段違いに速いというメリットがあります。申請書が印字された状態で出てくるので、申請者ごとに異なる筆跡を読み解く必要がありません」(岸田主事)
MKシステムの導入により、窓口での受付にかかる時間は約5分から半減。さまざまな改善の取組と合わせて、繁忙期には2〜3時間かかっていた待ち時間も18分に短縮されました。

(MKシステムの画面(※データは全てダミーです))
中野区は2026年1月、全国の自治体が業務改善の事例を持ち寄り、学び合う発表会に参加しました。鹿児島県出水市で開催されたこの発表会には、中野区を含む全国11の自治体が参加し、実践事例を共有しました。
中野区は、開発したばかりのMKシステムを発表。標準化をきっかけに、業務改善を図ったモデル事例として注目を集め、最優秀賞を受賞しました。発表会に参加した他の自治体職員からは、身近なツールで課題を解決していたことが印象的だったとの声が聞かれました。
発表を終えた岸田主事は、今後の業務改善への意気込みを語ります。
「自治体にとっては標準化するだけがゴールではありません。さらにその先の目標、区民の負担を減らす、職員の負担を減らす、この双方の目的のために工夫をしていく、改善の意識を持っていくことが重要です」(岸田主事)
標準化をきっかけとした業務改善を全国へ。他自治体への広がりに期待

(デジタル庁デジタル社会共通機能グループの橘参事官)
標準化はシステム移行にとどまらず、業務改善(BPR)の一環として位置づけられています。具体的には、標準仕様書に示された業務フローを参考に、既存のフローを見直して、業務の効率化を図ることが考えられます。
それだけでなく、標準化で新たに追加された機能を活用した業務改善も想定されます。中野区の取組は、まさにこれに当てはまります。
デジタル庁では、こうした標準化をきっかけとした業務改善の事例が、他の自治体にも広がっていくことを期待しています。
「今回の中野区の取組は、標準化によって新たに追加された機能を活用し、申請書の手書きという手間の削減を実現されました。標準化をきっかけに実現できた業務改善は、システムが標準化されたからこそ全国の自治体で取り組むことが可能だと考えています」
「2026年度以降、多くの地方公共団体で標準準拠システムが稼働し、その中で中野区のように業務改善が生まれることを期待しています」(橘参事官)
◆デジタル庁ニュースでは、MKシステムを発案・開発した中野区役所の岸田主事を密着取材した動画を公開しています。あわせてご覧ください。
(※記事内容は取材時の情報に基づきます)
●関連情報は、以下のリンクをご覧ください。
- 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、基幹業務システムの標準化や窓口DXに関する動画を公開しています。以下のリンクをご確認ください。