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乳幼児健診のデジタル化で「35分早く帰れる」 青森県むつ市の取組と高い保護者満足度の背景

「デジタル受診は、早く帰れるから良いですね」

1歳6か月健診の会場で、デジタル受診を選んだ20代の保護者はこう語ります。

マイナンバーカードを活用して、乳幼児健診の問診票をスマートフォンから事前入力し、当日の受診をスムーズにする取組(以下、 デジタル受診 )が、全国11の実証自治体で進んでいます。

なかでも青森県むつ市は、 デジタル受診者へのアンケートで「とても満足した」「満足した」と回答した方が合わせて95% にのぼっています(※:回答数38。実証段階のため参考値)。

2026年3月10日、デジタル庁の職員3名がむつ市を訪れ、1歳6か月児健診の現場を視察しました。この記事では、そこで見えてきた「デジタル化の手応え」と「これからの課題」をお伝えします。

待ち時間が少なくなり、受付から終了まで35分の短縮

白衣とマスクを着けた白髪で高齢の男性医師が、診察台に座る子どもの腕(手首付近)を診察している。子どもの隣には水色のチェック柄エプロンを着けた女性(保護者)が付き添い、子どもを支えている。机の上には消毒液やトレーなどの医療用品が置かれており、白いカーテンを背景とした診察室の様子が映っている。
(医師が親に抱かれたこどもを診察する様子)

従来の紙の問診票を使った受診(以下、紙の受診)では約1時間50分。デジタル受診なら約1時間15分。 その差は35分でした。

むつ市の1歳6か月児健診は、下北文化会館を会場に、仮受付→本受付→問診→歯科健診→身体測定→小児科健診→個別指導の順に進みます。
この日、デジタル受診の1番目の方と紙の受診の1番目の方で、各工程の開始時刻を実際に計測しました。

デジタル受診紙の受診
所要時間約1時間15分約1時間50分
35分短縮

むつ市では、事前にスマートフォンでデジタル問診票を入力した方を優先的に案内する「ファストパス」の仕組みを導入しています。テーマパークのように、デジタル受診者が先に案内されるイメージです。

ピンク色の花柄の服を着た幼児(1〜2歳程度)を白いマスクを着けた白いタートルネック姿の若い女性(保護者)が正面に向けて抱いている。幼児は女性の頬に顔を寄せている。背景は白い壁。
(健診に訪れた保護者とこども)

小さなお子さんを連れての健診は体力勝負。保護者からは 「ただでさえ時間が長くなるので、少しでも早く帰れるのはありがたい」 という声が多く聞かれました。

保護者の声——「直前に書き直せるのがいい」

スーツ姿の男性の両手がスマートフォンを持ち、マイナンバーカードをスマートフォンで読み取る操作している。画面には緑色のチェックマークとともにマイ「読み取り完了」という完了メッセージが表示されている。スマートフォンの背面にはカードが当てられている。
(受診者の保護者のマイナンバーカードを読み取るスマートフォン端末)

時間の短縮だけではありません。保護者が評価していたのは、 「下書き保存」 の機能でした。

初めてのお子さんを連れて来場した20代の保護者は 「1週間前に入力しておいて、直前に子どもの様子が変わったら書き直せるのが便利」 と話します。

紙の問診票は一度記入すると修正が大変ですが、デジタルなら気づいたタイミングで更新できます。子どもの体調は日々変わるからこそ、この柔軟さが支持されています。

入力そのものについても 「簡単で手間がなかった」 というポジティブな評価でした。当日、デジタル受診を選んだ保護者(8人)へのインタビューでは、 全員が「また利用したい」と回答 しています。

一方、今回紙の受診を選んだ30代の保護者にも話を聞きました。この保護者は「デジタルがあるのは知っていたけど、直前までバタバタしていて準備できなかった。 次からはぜひ使いたい 」と話します。デジタル受診を選ばなかった理由は、「使いたくない」ではなく、「今回はタイミングが合わなかった」というものでした。

「青いバインダー」と「赤いバインダー」——むつ市の工夫

仮受付のシーン。受付台でベージュの上着を着たスタッフの手が、青いバインダーを差し出している。受け取る側は青いジャンパーを着た乳幼児を抱っこしており、子どもはカラフルな靴下と赤い靴を履いている。手前には緑のトレーや書類・文具類が置かれている。
(デジタル受診者用の青いバインダーを手渡される保護者)

この日は、 来場者15組のうち8組がデジタル受診を選択しました。 この差を生んでいるのが、会場でのオペレーションの工夫です。

仮受付の段階で、 デジタル受診者には青いバインダー、紙の受診者には赤いバインダー が渡されます。待合室も分かれており、デジタル受診者は先に案内されます。「デジタルで入力すると早く帰れる」という体験が目に見えるかたちで伝わるため、次回以降のデジタル受診を後押しする効果も期待できます。

「使いにくいなら変える」むつ市が導入時の壁を乗り越えた経緯

もう一つ、むつ市の取組で特筆すべきは、 導入時のハードルを乗り越えてきた経緯 です。むつ市こどもみらい部子育て支援課の武田庄平主任主査によると、導入当初は現場から「今まで通りでよい」という声もあったといいます。

導入は事務方が主導し、市長への協議を経て導入を決定。その後も、当初利用していたシステムの使い勝手に課題を感じ、 実証事業の最中にベンダーごとシステムを切り替える という判断をしています。「現場で使いにくいなら変える」という姿勢の積み重ねが、今の高いデジタル受診率につながっています。

デジタル化が進むからこそ見えてきた、次の課題

レンガ調の壁と観葉植物が見える明るい施設のロビーで、2名が並んで正面を向いている。 左側はグレーのカーディガンを着た若い女性(林氏)で、穏やかな笑顔を見せている。右側は黒いスーツに白いシャツを着た男性(武田氏)で、青いストラップの名札(IDカード)を首から下げており、笑顔を見せている。背景には掲示物やソファが確認できる。
(保健師の林ゆう花氏(左)、むつ市こどもみらい部子育て支援課の武田主任主査(右))

むつ市の現場では、効果とともに、今後の改善につながる気づきも得られました。

まず、 過渡期ならではの業務負荷 があります。デジタルと紙が混在することでオペレーションが複雑化し、むつ市では対応のために スタッフを1名増員 している状況です。住民側のメリットが見えてきた一方で、自治体側の業務効率化はまだ道半ばです。

現場のスタッフからは、具体的な改善要望も聞かれました。

保健師の林氏は、「iPadで問診内容をスクロールしながら確認するため、 紙と比べて一覧性に課題が残る 」と話します。

歯科健診 では、1項目の入力に複数回のタップが必要で、「紙にペンで書くような感覚で入力できるのが理想」という意見も武田主任主査からありました。
ただ、こうした課題は、デジタル化を前に進めているからこそ見えてくるものです。

武田主任主査はこう語ります。

「現場で使ってみて、気づいたことがあれば改善する。その繰り返しでここまで来た」
実際、現場のニーズに合ったシステムを柔軟に選択できることが重要だという認識も示しています。

むつ市では、SMSを活用した通知の導入など母子保健以外の分野でもデジタル化を進めています。市全体としてデジタル推進に積極的に取り組む姿勢が、乳幼児健診における現場の挑戦を後押ししています。

デジタル庁では、今回の視察で得られた知見をもとに、現場の声を継続的にシステム改善に反映させていく方針です。 乳幼児健診のデジタル化が全国に広がっていくなかで、むつ市の取組は、多くの自治体にとってのヒントになるはずです。

●マイナンバーカードを活用した乳幼児健診のデジタル化について、詳しくは以下のリンクをご覧ください。

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