四つの証明書の添付省略で窓口・住民負担を削減 福岡県田川市の取組と「法人ベース・レジストリ」が変える行政手続
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デジタル庁は行政手続の効率化と国民の利便性向上のため、「公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)」の整備を進めています。2026年3月に利用を開始する「法人ベース・レジストリ」を利用することで各種手続での登記事項証明書の添付省略等が実現されます。
こうした国の動きに先駆けて、添付省略を進める地方公共団体が福岡県田川市です。これまで田川市では申請手続の窓口での待ち時間が長くなる状況が続き、市民と職員双方の負担となっていました。そこで、手続の際に求めていた証明書の添付省略に取り組んでいます。
今回のデジタル庁ニュースでは田川市の担当職員に、添付省略を始めた背景や庁内調整の経緯、導入後の業務変化について聞きました。記事の後半では法人ベース・レジストリの概要や今後の展望も紹介します。
<目次>
窓口体験調査から始まった改革、見えたのは“証明書取得”の非効率
(市民課の窓口/撮影:デジタル庁)
人口約4万4,000人の田川市では、市役所窓口の混雑が課題となっていました。1階の手続カウンターは13か所、窓口業務には20人弱の窓口スタッフを配置していますが、申請手続が集中する日には市民を長く待たせる状況が続いていました。
総務省の「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」(第3.0版、2024年4月改訂)では、住民との接点の多様化・充実化や窓口業務の改善を通じて住民の利便性向上を図る「フロントヤード改革」の推進が重点取組事項として掲げられています。田川市ではかねてからの課題だった窓口混雑の緩和に向けて、この取組に着手しました。
●デジタル庁では、フロントヤード改革の取組状況を見える化したダッシュボードを公開しています。詳しくは、以下のリンクをご参照ください。
窓口混雑の原因が手続時間の長さにあるのか、来庁者の多さにあるのか、田川市では明確に特定できていませんでした。まずは現状を把握するため、行政改革を所管する総務部経営企画課が主体となり、2024年6月に「窓口利用体験調査」を実施しました。
調査では、市役所窓口を訪問した市民の状況や家族構成、申請手続の内容などの条件を仮定し、市職員が市民役となって一連の手続を体験。申請書への記名回数や所要時間などを計測し、窓口業務の課題を探りました。
経営企画課DX推進室の三根のぞみ氏は、調査で見えてきた課題をこう振り返ります。
「主に若手職員が市民役を務めましたが、申請書に何十回も手書きで名前を記入し、途中から手がつりそうだったとの声も聞かれました。申請内容によっては一つの窓口で複数の手続が必要で、申請書を何枚も書かなければならないためです」
(経営企画課DX推進室の三根氏)
また、市民が一つの手続で複数の窓口を行き来していることも判明しました。例えば、子育て関連手続の窓口では、市民課の窓口で証明書の取得を求めるケースが確認されました。
市民には証明書の発行手数料という費用負担に加え、窓口間の往来や順番待ちという時間的な負担もかけていました。
経営企画課企画政策係の陸田千尋主任は、添付省略の検討を開始したきっかけをこう話します。
「証明書の取得が、市民役を務めて感じた一番の不便さでした。何より、市役所内部に存在する情報にもかかわらず、その情報が記載された証明書の提出を市民に求めることに違和感もありました」
(経営企画課企画政策係の陸田主任)
フロントヤード改革の一環で派遣を受けた「窓口BPRアドバイザー」(※外部リンク)からのアドバイスでも、宮崎県都城市が市民の申請手続で証明書の添付省略を始めていることを教わりました。こうした中で、経営企画課は窓口利用体験調査を通じて見えてきた課題「証明書の添付省略」を田川市でも実現できないか模索し始めました。取組は陸田主任が主導し、有田匡広課長がサポートしました。
約60手続を洗い出し精査 住民票など4種類で添付省略を実現
(田川市経営企画課が作成した「諸証明等書類調査票」。全庁に向けて手続の名称や添付を求めている証明書、添付省略の可否を確認した/同市提供)
経営企画課は2024年10月、全庁に対して、市民に証明書の提出を求めている手続の内訳と添付省略の可否を照会し、証明書添付の全容を洗い出しました。
照会の結果、田川市では約60の手続で証明書の添付を求めていることが判明しました。一方、照会を受けた担当部署からは「添付省略は不可」との回答が相次ぎました。
有田課長は 「担当部署からすると、青天の霹靂だったと思います」 と振り返ります。
「証明書の添付は市の要綱で規定し、各種申請手続の様式に明記しています。担当部署にとって当たり前だった添付をなくす方向で検討する趣旨の照会に、とても驚いたはずです」
(経営企画課の有田課長)
経営企画課では“省略不可”の回答を踏まえ、紙の証明書の添付が本当に必須なのか、記載事項の閲覧で対応可能なのかを手続一件ごとに精査し、担当部署に確認しました。
調整の結果、国や県などに関わる手続を除いた23の手続を対象に、4つの証明書(住民票、所得証明書、課税証明書、滞納のない証明書)の添付省略に向けた具体的な検討を進めることにしました。
このほか「戸籍謄本」(もしくは「戸籍抄本」)、「印鑑登録証明書」の提出を求める手続がありますが、前者は法務省が所管する証明であること、後者は取得の際に、マイナンバーカードまたは印鑑登録証の提出が必須であることから、今回の取組では対象外としました。
このように「まずはできることから着手する」という観点から、添付省略の対象を市で完結する手続と市が発行する証明書に絞りました。
公用請求の壁と業務フローの工夫 市民課・税務課の連携で課題解決

(証明書添付省略の業務フロー/田川市の資料をもとにデジタル庁ニュースで作成)
経営企画課では4つの証明書の添付省略に向けて証明書関係の業務フローを構築しました。事務作業面で影響を受ける市民課、税務課と時間をかけて協議し、どうすれば添付省略が可能になるかをお互いにアイデアを出し合いながら枠組みを固めていきました。
まず、証明書に記載された内容の確認で問題がない場合(紙の証明書が不要な場合)、田川市の住民情報系システムを閲覧する方向で整理しました。税情報は税法による規制が多く職務ごとに閲覧権限を制限してきましたが、税務課と協議を重ね、閲覧項目や権限範囲を調整しました。
一方、住民情報系システムの端末は台数に余裕がなく、全ての職員が同時に閲覧できる環境ではありません。他団体への提出などで紙の証明書が必要な場合も考えられます。
こうしたケースへの対応として、担当部署が公用請求を用いて証明書を取得することも検討しました。しかし、住民票の公用請求は住民基本台帳法で「法令で定める事務の遂行のために必要である場合」(第十二条の二)は請求可能と規定されていました。
田川市独自の助成制度など、法令で定める事務ではない手続には公用請求を活用できないことが分かり、別の手段を検討しました。その結果、住民票は免除交付申請を用いて担当部署の課長から市民課長に代理申請して取得する方式に整理し、税証明は税務課に照会する形で添付省略を可能としました。いずれも、申請者からの委任や同意を必要とする仕組みとしています。
有田課長は 「私たちが心配していたのは、税務課の業務量の増加です」 と話します。市民課が一手に引き受けていた証明書発行の事務のうち、税証明は照会という形で税務課に引き継がれるためです。
「これまで市民課が対応していた業務を、税務課が一部対応することになります。業務が増える税務課の反応が気にかかりましたが、住民サービスの向上につながることや、証明書誤りの解消による市民課の負担軽減など庁内全体での最適化を丁寧に説明したことで、結果的には受け入れてもらえました」(有田課長)
業務フローを検討する中で、すでに税務課への照会を通じて添付省略を実施している手続があることも分かりました。 「私たちの取組に確信を持てました」 と有田課長は話します。
こうして、担当部署がそれぞれに構築していた業務フローは添付省略によって整理され、判断基準が明確になりました。
幹部承認から全庁通知まで 添付省略を庁内に定着させた進め方
2025年8月、経営企画課は市長・副市長・部長級職員ら幹部職が参加する庁議で添付省略の方針を説明しました。実施可否の判断を委ねるにあたり、職員と市民それぞれのメリット・デメリットを審議材料として提示しました。
職員のメリットとしては、業務効率化が挙げられます。申請者の取得ミスによる手戻りの防止やクレームの減少、証明書の説明が不要になることなどが期待できます。デメリットとしては、発行手数料の免除による歳入の減少と、要綱などの改正や免除交付申請書の様式追加に伴う一時的な事務作業の発生が考えられました。
歳入の減少額は年間あたり約26万円と試算しました。一方、証明書の添付を求める手続は2021年から2023年の3年間で約1,700件に上りました。費用対効果を鑑みると、歳入減少の影響は限定的だと判断しました。
申請者である市民のメリットは発行手数料(1件につき約300円)が不要になること、取得ミスによる証明書の再取得がなくなること、取得の所要時間が減ることが挙げられます。デメリットはありません。
庁議での幹部職の反応は 「住民サービスの向上につながるのであれば、やらない手はない」 と前向きなもので、スムーズに了承を得られました。これを受けて経営企画課は2025年9月、全庁に対して、添付省略に向けた要綱改正や住民情報系システムの権限申請などの対応を依頼しました。
経営企画課は添付省略によって発生する事務作業の一部を請け負うなど、担当部署に伴走する姿勢を打ち出しました。具体的には、住民情報系システムの閲覧権限の申請を経営企画課で取りまとめ、情報システム担当部署に一括申請しました。
田川市の場合、4つの証明書の添付を義務付けた条例はなく、要綱の見直しのみで対応できました。担当部署からの要綱改正の問い合わせには、総務法制係がリーガルチェックを担当。全庁への依頼から約4か月後の2026年1月、添付省略の開始に至りました。
手戻り、クレームが減少 教育委員会が実感する添付省略の効果
全国の地方公共団体と同じく、田川市でも年度末や年度明けには申請手続が集中します。窓口を訪れた申請者が必要な証明書を間違えて再取得するケースも多かったため、添付省略の効果が期待されています。
市教育委員会の教育総務課では、小・中学生向けの就学援助の申請を受け付けています。新学期を控えた1月から3月の受付期間中、世帯数ベースで年間約600件の申請を想定しています。以前は所得証明書の提出を求めていましたが、申請者が誤って課税証明書を取得してしまう事例も多く、手戻りも頻繁に発生していました。
同課総務係の平川美珠歩係長は 「就学援助の申請には生活にお困りの方が来訪します。その方々に発行手数料や庁舎を往来する負担をかけるのは、申し訳ない思いがありました」 と話します。
教育総務課は市民課がある本庁舎とは別の庁舎にあり、証明書の取得ミスがあると申請者は本庁舎を再訪する必要がありました。また、申請期間には電話での問い合わせも多くありましたが、添付省略によってこうした負担が軽減されています。
証明書の記載事項の検索・照会によって事務作業が増えた側面はあります。しかし、申請者の取得ミスによる手戻りやクレームが減り、職員の精神的な負担を軽減する効果は小さくありません。
紙の削減効果も期待できます。所得証明書は世帯構成によっては複数枚になるため、書類の保管やシュレッダー作業の削減にもつながります。
市教育委員会では、就学援助での取組を皮切りに、大学生向け奨学金の申請手続にも添付省略を広げるべく、近隣の地方公共団体との調整を進める考えです。
登記事項証明書(商業・法人)の取得・添付が不要へ、公用請求の代替も。「法人ベース・レジストリ」の役割と活用法

(法人ベース・レジストリで出来ること/デジタル庁ニュース作成)
田川市の取組は、地方公共団体が主体的に添付省略を進めた先駆的な事例です。
国が整備する法人ベース・レジストリを利用することで、登記事項証明書についても、添付省略を推進することが可能です。
国では、デジタル庁を中心に、2025年6月に閣議決定された「公的基礎情報データベース整備改善計画」(※外部リンク/[PDF])に基づき、「ベース・レジストリ」の整備を進めています。
このうち「法人ベース・レジストリ」は全国の地方公共団体が商業・法人登記情報を検索・取得できるシステムで、2026年3月から利用を開始します。整備の背景には、商業・法人登記をめぐる以下のような課題があります。
事業者が行政機関等に提出する登記事項証明書(商業・法人)は、年間500万件以上に上ります。登記事項証明書には有効期限があるため、事業者は手続のたびに登記事項証明書を取得し、添付しなければなりません。加えて、添付書類として提出されると、申請書の情報と、登記事項証明書に記載された情報の突合が発生し、行政職員側の負担にもなっています。
また、法人の名称や所在地、役員が変更された場合には、登記申請を行った上で、許認可等の様々な制度でも届出が別途必要となり、これまで事業者の負担となっていました。
例えば、飲食店を営む法人が規模拡大のために本店所在地を変更する場合、登記の変更を行った上で、店舗(営業施設)単位で、法人の本店所在地の変更の届出を行う必要があります。東京都23区外の多摩地域だけで年間3,000~4,000件の変更届が提出されています(2023年2月22日デジタル臨時行政調査会作業部会(第18回)資料3 [PDF ※外部リンク])。
それ以外にも、地方公共団体の職員も税務や許認可等の事務で、最新の法人の情報を確認するために法務局に行き、登記事項証明書を取得する「公用請求」をしています。法人に関する「公用請求」は、全国で年400万件にも上ります。
このように、登記事項証明書の取得や目視確認、事務処理に多くの手間と時間を要していました。法人ベース・レジストリは、行政機関等が商業・登記情報にオンラインでアクセスする仕組みです。行政機関が法人ベース・レジストリを利用することで、これらの負担を大きく軽減できます。

(法人ベース・レジストリ利用後の変化/デジタル庁ニュース作成)
法人ベース・レジストリは2026年3月から利用を開始します。全ての地方公共団体が利用可能です。
利用開始前の事前申込では、国が14府省庁約4,000課室、地方公共団体が約900団体の約1万2,000課室が利用申込をしています。
埼玉県や八王子市のように、積極的な活用を宣言する地方公共団体も出てきています。
田川市でも法人ベース・レジストリの利用を予定しています。
田川市では登記事項証明書(商業・法人と不動産)の添付を求める手続が48件あり、デジタル手続法に基づく規則を改正するなど、導入に向けた準備を進めています。導入を担当するDX推進室の三根氏は、法人ベース・レジストリへの期待を次のように話します。
「商業・法人登記は業者登録やプロポーザルの資格確認、指定管理者の選定で用います。導入後も証明書の提出は受け付けますが、事業者の方にはぜひ添付省略を活用してもらいたいです」
有田課長は続けて、こう語ります。
「市長がよく口にする言葉があります。それは『日本一便利な田舎町を目指そう』です。公共交通が不便な地域でも、移動が難しい方々が便利にサービスを受けられる役所でありたい。法人ベース・レジストリの活用を通じて、田川市での手続の利便性をさらに高めていきたいです」

(法人ベース・レジストリ 国民(事業者)のメリット/デジタル庁ニュース作成)
法人ベース・レジストリの利用により、国全体で、国民(事業者)と行政職員の登記事項証明書(商業・法人)に関連する手続が、年約2000万件効率化され、今後5年間で累計約447億円分の負担が軽減されることが見込まれます。

(法人ベース・レジストリのメリット/デジタル庁ニュース作成)
デジタル庁としては、全国の様々な地方公共団体や国の機関の皆様に法人ベース・レジストリをご活用いただけるよう利用促進に努め、国民の利便性向上と行政運営の効率化を積極的に推進してまいります。
●関連情報は、以下のリンクをご覧ください。
- ベース・レジストリ|デジタル庁(※外部リンク)
- 法人ベース・レジストリ|デジタル庁(※外部リンク)
- 公的基礎情報データベース整備改善計画 [PDF](※外部リンク)
●デジタル庁ニュースとnoteでは、ベース・レジストリに関する記事を掲載しています。以下のリンクをご確認ください。
- 住所の「表記揺れ」解決で官民の負担削減、災害支援も アドレス・ベース・レジストリが目指す「データを自動的に使える未来」|デジタル庁ニュース
- 利用者のニーズを探究 データプロダクトマネージャーが挑む「法人ベース・レジストリ」の利用促進|デジタル庁(※外部リンク)
- データを「誰もが使いやすい形」に。法人ベース・レジストリ担当プロダクトマネージャーの挑戦|デジタル庁(※外部リンク)
- ベース・レジストリの整備で、手続を効率化する。デジタル庁法務スペシャリストの軌跡|デジタル庁note(※外部リンク)
- 行政とITの橋渡しをするデータプロダクトマネージャー|デジタル庁note(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースの最新記事は、以下のリンクからご覧ください。