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グラフ作成で終わらせない。「分析」から始まるデータサイエンス授業:新潟県立新発田高校の挑戦

デジタル庁ファクト&データユニットは2026年1月21日、新潟県立新発田高校にて、デジタル庁が公開している「Japan Dashboard」(※外部リンク)を活用した公開授業を全国で初めて実施しました。

文部科学省から「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定を受けている同校では、日頃からデータサイエンス教育に力を入れています。しかし、教育現場には「データ分析」を行う以前の、「データの収集・加工」に膨大な時間がかかってしまうという課題がありました。

「グラフを作る作業ではなく、その先の『データを読み解く力』を育てたい」

そんな先生の想いから実現した授業の様子をファクト&データユニットのメンバーが紹介します。

<執筆者>
秋永将(ファクト&データユニット/データプロジェクトマネージャー)

導入:なぜ今、学校で「データ活用」なのか?

室内で、マスクを着用した黒い詰襟の学生服を着た高校生2名が、デスクに置かれたデスクトップPCのモニターを並んで覗き込んでいる。モニターには「居住・労働・人口と暮らし」に関するダッシュボードが表示されている。デスク上にはキーボード・書類・バインダーが置かれている。背景には別の人物がタブレットを手に立っている。
JapanDashboardを活用した公開授業の様子)

昨今、社会のあらゆる場面でデータに基づく判断や、データを活用するためのリテラシーが求められています。

高校教育の現場でも「総合的な探究の時間」や「情報」の授業において、データに基づいて課題を発見し、解決策を探る力が重要視されています。

しかし、実際の授業現場では課題もありました。今回の授業を企画した 新潟県立新発田高校 の太田雄介教諭は、これまでの苦労をこう語ります。

インタビューに応じる太田教諭。黒板の前でネイビーのネクタイを着用したスーツ姿でインタビューに応じている。
(新潟県立新発田高校の太田雄介教諭)

太田教諭:
これまでのデータサイエンスの授業では、データを収集し、生徒自身が表計算ソフトでグラフを作成する工程だけで授業時間が終わってしまうことが多々ありました。パソコン操作に不慣れな生徒は、肝心の『分析』まで辿り着けないこともあったのです。

社会に出れば、AIがいきなり『答え』を出してくれる時代です。だからこそ生徒には、その答えの根拠となるデータがどこにあり、どう読み解くべきなのかを『自分の頭で考える癖』をつけてほしかった。 面倒な作業をスキップして、いきなり『分析』からスタートできるツールが必要だったのです。

実践:Japan Dashboardで地域の「問い」を見つける

学校のコンピュータ教室で、詰め襟の学生服を着た男子生徒3名、えんじ色のセーターを着た男子学生1名、紺のジャケットに黒縁の眼鏡姿のデジタル庁職員がデスクトップパソコンを囲みつつ、画面を見ながら話し合っている。
JapanDashboardを活用した公開授業の様子)

今回の授業のテーマは「研究を社会に生かすための、地域の現状把握」でした。

参加した2年生の生徒たちは、Japan Dashboardを使って地域の「経済」「財政」「人口」などのデータを掛け合わせ、「地域で今何が起きているのか?」という疑問とそれに対する仮説を導き出しました。

ステップ1:ツールの基本操作(インプット)
授業の冒頭、デジタル庁職員からJapan Dashboardの基本的な使い方を紹介しました。

本ツールは、データ収集や加工等の専門的な知識がなくても、クリック操作だけで「人口と交通事故件数の相関」や「類似自治体との比較」などが瞬時に可視化できます。
※詳しい操作方法は、以下のチュートリアル動画をご覧ください。

ステップ2:グループワークと仮説立案
生徒たちは4人1組の班に分かれ、「経済」「教育」「社会基盤」などの担当分野を決定。自分たちが通う新発田市、新潟県やその他の地域の特徴について、データを交えながら議論を深めました。

これまでの授業と異なり、グラフ作成の手間がないため、生徒たちの会話は最初から「分析」に集中していました。 「なぜこの数値だけ高いのか?」「隣の町とは傾向が違う」といった声が教室のあちこちから上がり、班のメンバーを入れ替えて情報を共有する手法を用いることで、多角的な視点からの議論が行われました。

ステップ3:生徒による発表
授業の最後には、生徒たちがデータから自ら導き出した「発見」と「仮説」「考察」を発表しました。

生徒たちは単なる数値の大小だけでなく、複数の指標を掛け合わせることで、大人の視点でもハッとするような洞察を見せてくれました。

実際に生徒たちが発表した内容の一部を紹介します。

【発表事例1:直感とデータのギャップ(茨城県の交通事故)】

「Japan Dashboard」の画面。タイトルは『経済・財政・人口と暮らし|都道府県ごと|2つの指標の関係性をみる』。Y軸に人口総数(人口推計)、X軸に交通事故の死亡者数(人)を設定した散布図が表示されている。

生徒たちの仮説・考察発表1:
「人口」と「交通事故死亡者数」の相関を調査し、人口が多い大都市ほど事故が多いと予測した。

散布図を見ると、東京や大都市圏は人口が多いので死亡者数も多い傾向にある。しかし、関東圏の中で茨城県だけが、人口規模が他県よりも小さい割に死亡者数が多くなっている『外れ値』であることが気になった。

私たちはこの原因を、茨城県は近郊農業などで平野が多く、高速道路や道路網が発達しており、スピードが出やすい環境が影響しているのではないかと仮説を立てた。

逆に東京などの都市部は、バスや電車の普及によって自動車への依存度が低いため、人口比での死亡者数が抑えられているのではないかと考えた。


【発表事例2:教育投資とお金の関係】

「Japan Dashboard」の画面。「経済・財政・人口と暮らし」ダッシュボードにおいて、都道府県ごとに2つの指標の関係性を可視化した散布図。Y軸は「学力テスト平均正答率(公立小学校)【%】」(約50〜80%の範囲)、X軸は「教育費 - 児童1人当たり(公立小学校)【千円】」(約800〜1,400千円の範囲)。

生徒たちの仮説・考察発表2:
「教育」をテーマに、「お金をかければ学力は上がるのか?」という問いを起点にデータを確認した。Y軸に学力テストの平均正答率、X軸に『児童一人あたりの教育費』、『教職員の人件費』や『学校運営費』を設定して相関を調べた。

その結果、どの項目とも明確な相関が見られなかった。また、『少人数学級なら手厚い指導ができるのでは』と考え、教員一人あたりの児童数とも比較したが、ここにも相関が見られなかった。

このデータから、学校にかけるお金や人数のハード面よりも、教育の質などのソフト面が重要なのではないか、あるいは塾など学校外の要因が大きいのではないかと推測した。


【発表事例3:英語力と進学率の相関】

「Japan Dashboard」の画面。「経済・財政・人口と暮らし」ダッシュボードにおいて、都道府県ごとに2つの指標の関係性を可視化した散布図。Y軸は「教科に関する調査の平均正答数(英語)(公立中学校)【問】」(約6〜13問の範囲)、X軸は「大学等への進学率【%】」(約40〜75%の範囲)。

生徒たちの仮説・考察発表3:
英語の学力調査の平均正答率と、大学等への進学率には強い相関が見えた。一方で、理科・国語・社会などではそこまで強い相関は見られなかった。

このことから、中学校の頃から数学や英語の基礎ができている生徒たちが、大学進学を選択する傾向が強いのではないかと分析した。


生徒たちの発表を受けて、内閣官房の職員から「 相関がないとわかったことも大きな発見。 例えば『お金をかけても正答率が上がらない』と分かれば、『ではその予算配分は見直すべきではないか』という政策議論につながる」といったフィードバックが送られました。

授業後に聞いた生徒たち・担当教諭の声

授業を終えた直後の生徒たちと担当教諭に、ツールを使った率直な感想と、データ分析を通じて得られた「気づき」を聞きました。

授業を終えた生徒たちの声

・検索の手間から解放され、「次」を知りたくなる(生徒A)
「今まで自分が調べたい情報やグラフを検索しようとすると、インターネットでキーワードを入れて、公式サイトに行って……みたいに、すごく大変だったんですが、Japan Dashboardを使うと調べたいワードをすぐ入れるだけで、自分の知りたいグラフが出てくるのですごい楽しくなりました」

「『もっと調べよう』『じゃあ次はどうだろう』って、次が調べたくなりました。今回は『相関があるかないか』だけを見て指標を選んでしまった部分もあったので、次回はまず『市町村別でどんな統計が出ているのか』、例えば『この市はこれが多いから、じゃあこの歳入や歳出と関係があるんじゃないか』という段階を踏んでから、ちゃんと相関を調べたいなと思います」

・データで「直感のズレ」を正し、地域の特性を知る(生徒B)
「茨城県の交通事故死亡者数と人口の数が、他に比べて多いというのを見て、直感に反したことがこうやって可視化できるっていうのはすごく面白いことだなって思いました。データを深掘りすることで、『茨城は平野が多く道路網が発達しているから、事故のリスクも高いのではないか』といった仮説を立てることができました」

「このように、データを介することで各都道府県の特性を知ることができるのは興味深いです。テスト勉強などでもグラフが出てきたりするので、そういうところでも読み取る力をつけられそうだなと感じています」

・思い込みを捨て、論理的に考える第一歩に(生徒C)
「自分は憶測だけで仮説を立ててみてしまったこともあったんですが、気づかないうちに根拠なしに考えてしまうことがあると思います。やっぱりデータは論理的に考えるポイントの一つになると思うので、『まずデータを見てみよう』『グラフを見てみよう』と考えることが、論理的に考える人材に育つ第一歩になるんじゃないかなと思いました」

「データを比較して情報を得ることで、今どのようなことが課題になっているのか、その傾向をつかむことができて、それがそのあとの研究活動に活かせるのだとわかって、すごく意義があると思いました」


担当教諭「思考を止めずに分析できた」

今回の授業を企画した太田教諭に、データ教育の意義や、授業を通じた生徒の成長について聞きました。

――なぜ今、高校現場でのデータ教育が必要なのでしょうか。
太田教諭:
昨今、社会のいたるところでデータを目にするようになりました。生徒たちには『リテラシー』として、データの使い方はもちろん、それをどう読み解き、どう考えるかという視点をしっかり身につけてほしいと考えています。

それが社会に出てから活躍する力になりますし、直近の話で言えば、受験においても様々な教科でグラフを読み解く力が求められています。自分でデータを扱うことによって、そうした問題にも取り組みやすくなり、自分で課題を発見する力にもつながると考えています。

――実際の授業での生徒たちの様子をどのように感じましたか。
太田教諭:
授業開始直後は静かだったので少し心配しましたが、途中からは非常に活発な議論が生まれ、良い意味で驚きました。

特に嬉しかったのは、私が見てほしかった『外れ値』の存在や、『グラフの形状を見ることで初めて分かる事実』に生徒自身が気づいてくれたことです。

この授業には決まった『正解』がありません。生徒たちは答えがない中で、お互いに『どういった答えがあるのか』をワイワイ話し合いながら、自分たちなりの考えをしっかりまとめていました。

地図機能を活用して地理的な視点を取り入れるなど、ツールが直感的だからこそ、生徒たちが自ら深掘りできていたのが印象的でした。

――ツールとしての「Japan Dashboard」の手応えは。
太田教諭:
『思考を止めずに分析できる点』が非常に良かったです。これまでは、仮説を立ててe-Stat(政府統計の総合窓口)からデータをダウンロードし、グラフを作ってみて『なんか違うな』と思ったら、またデータを集め直してグラフを作り直す……という作業が必要でした。そこでどうしても時間がかかり、思考が分断されてしまっていたのです。

今回はクリック一つでグラフが切り替わるので、『あ、こう思ったから次はこれを見てみよう』『これとこれは関係ありそうだな』と、連想ゲームのように次々と分析を進められます。

また、都道府県データと市区町村データを同時に見比べられるので、『全国ではこうだけど、自分の住む地域はどうなのか』という視点をスムーズに持てた点も、生徒の学びを深める要因になったと感じています」

――「データリテラシー」の観点で、特に伝えたかったことは。
太田教諭:
現代はネット上に誤情報も含めて様々なデータが溢れています。だからこそ授業では、『根拠のあるデータを使うこと』の重要性を伝えています。

なんとなく取ったデータや、誰が作ったか分からないデータではなく、出典元が明確なデータを使って証明しなければ信頼は得られません。

その点、Japan Dashboardは政府が公開している統計データであり、出典もしっかり明記されています。『信頼性の高いデータを用いて、根拠を示しながら自分の意見を伝える』という経験を、2年生のうちにできたことは非常に大きいと思います。

――今後の展望についてお聞かせください。
太田教諭:
今回の授業で、分析主体の活動ができる確かな手応えを感じました。

私は数学の教員ですが、今後は数学の授業で散布図や相関係数を扱う際にも活用できますし、社会科の地理や公民の分野でも、『全国と比べて自分の地域はどうなのか』を瞬時に視覚化する教材として非常に有効だと感じています。

これからの時代、AIを使えばいきなり『答え』が出てしまうこともあります。しかし、答えを出す過程として、しっかり根拠がどこにあるのかを自分で調べ、自分で考える癖をつけてほしい。

データサイエンスという武器を使いながら、そうした『しっかり考える力』を持った人材を育てていきたいと考えています。

今後の展開に向けて

今回の授業では、生徒たちがデータを「武器」にし、自分たちの住む社会を深く、多角的に捉え直す姿が見られました。デジタル庁では、こうしたデータ活用モデルを、全国へ広げていきたいと考えています。

授業を参観した新潟県教育庁高等学校教育課指導第1係長の立川純氏も、その意義をこう語ります。
新潟県立新発田高等学校が実施した「Japan Dashboard」を用いたデータサイエンスの公開授業を参観し、「Japan Dashboard」を用いた学びが、データを活用する力だけでなく、データを読み解いて問いを立てる力を育むことができる点で、大きな意義があると感じました。

また、社会の変化を「Japan Dashboard」のようなツールを用いて可視化することは、良質な問いと根拠に基づいた仮説を立てることにつながり、探究的な学びの質を高めるものと考えています。

新潟県教育委員会では、データサイエンスや探究・STEAM教育を重視しており、令和7年度には「新潟県探究・STEAM教育推進事業」を実施し、生徒の課題解決力を高めるため、データサイエンスを用いた教科横断的なアプローチにより、地域の課題の解決を目指す体験型ワークショップや、教員の指導力向上を目的とした研修等を行ったところです。

今後も引き続き、データサイエンスや探究・STEAM教育の推進に取り組んでいきたいと考えています。

今回の授業は、学校・行政・デジタル庁が連携することで生まれた一つの実践例です。デジタル庁では引き続き、こうしたデータ活用の輪を様々な分野へと広げていきます。

●当日の授業の模様は、デジタル庁ニュースの動画でも紹介していますので、ぜひご覧ください。

動画の内容をテキストで読む

●Japan Dashboardは、経済・財政・人口と暮らしに関するデータを、わかりやすく可視化したダッシュボードです。どなたでも無料でご利用いただけます。以下のリンクからご利用ください。

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