府省庁の壁を越え 事務負担軽減~SEABIS改修に挑む者たち~
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約40万人の国家公務員が日ごろから利用する「旅費等内部管理業務共通システム」(SEABIS)の大規模改修が現在進められています。
SEABISとは、内閣府や国土交通省など約30府省庁等の国家公務員が使う共通システムです。
国家公務員の出張旅費精算、各府省庁が開催する委員会の委員等への謝金・諸手当の支払い、各府省庁で用いる物品管理に関する手続の3業務を担っています。2025年4月に改正旅費法が施行されるため、それに合わせて旅費精算機能を大規模改修しています。
今回のシステム改修を通じて、出張旅費の精算手続を簡素化することで職員の負担を軽くし、それぞれの職員が業務そのものに集中できるよう環境を整えます。
さらに、今後予定されている次期システムへのバージョンアップでは、カスタマイズをせず民間製品を導入することも視野に入れて、システムアーキテクチャ(システムの基本的な構造の設計や仕様)を検討しています。
<目次>
府省庁共通の業務を一元化 SEABISの歩み
SEABISの開発は、「電子政府構築計画」が策定された2003年にさかのぼります。背景には、行政分野にIT(情報通信技術)を活用すべく、業務や制度の改革、それに伴うシステムの一元化などが必要とされたことがあります。
2004年9月、政府の行政機関における業務効率化や合理化などを情報技術で推進する業務改革に向けた計画が策定されました。これにより、物品調達、旅費精算、謝金・諸手当、物品管理、補助金の5業務に関する計画は経済産業省が担当することになりました。
その後、さらなる検討が重ねられ、経済産業省の担当を旅費精算、謝金・諸手当、物品管理の3業務に整理し、それら業務を取り扱う府省共通システム「SEABIS」の開発が決まりました。
2012年からシステムの開発が始まり、2014年に旅費精算システムの初期バージョンがリリースされました。2021年9月にはデジタル庁発足に伴い、SEABISの開発・運用は経産省からデジタル庁に移管。初期リリース以降も、クラウド上で使用できる仕組みに改善するなど、少しずつアップデートしてきました。
70年以上つづく旅費法、社会情勢に合わせ改正
SEABISによって業務の効率化が進められている一つが旅費の精算ですが、国家公務員の旅費については「旅費法」という法律で支給額の基準等が定められています。
旅費法は、公務で出張した国家公務員に支給する旅費に関する基準等を定めたもので、公務の円滑な運営と国費の適正な支出を目的としています。SEABISの“よりどころ”となる法律です。
現行の旅費法は1950(昭和25)年に制定され、見直しを重ねてきたものの、70年以上にわたって基本的な内容が維持されてきました。
現行法では、国内外の経済・社会情勢の変化による物価の動きに対応しきれていない面もあります。法の運用を工夫して対応した結果、旅費精算において例外的な取り扱いが増え、執行ルールの複雑化や手続の煩雑化を招いている現状があります。その最たるものが、職員による旅費の立て替え払いです。
たとえば、海外出張時の宿泊費が支給される規定の額を超えた場合、超過額の支払いには別途申請手続が必要です。しかし、場合によっては、超過分を職員が自腹で負担することもありました。これは旅費精算の執行ルールが複雑で、精算手続に手間と時間を要することも影響しています。
また、職員が航空券やホテル代の決済にクレジットカードを使った場合、口座からの引き落とし日までに旅費の精算が間に合わないことも起こっています。社会人になりたての若手職員らにとって大きな金銭的負担となり、重い問題です。
こうした状況を踏まえ、2024年4月には改正旅費法が国会で成立しました。
改正旅費法では、条文を減らし、旅費の種類や内容の詳細を政令で規定することで、経済・社会情勢の変化による物価の動きに対応できるようにしました。
また、精算手続の簡素化も図りました。宿泊費は実費支給となり、日当も宿泊を伴うもののみに簡素化されました。また、紙への印刷をベースに考えられていた旅行命令簿などを廃止し、旅行命令・旅費精算の手続きとそれに伴う帳票はすべてSEABIS上で完結できるようになります。
約8割がシステムに「不満」、使いやすさ意識して改修
旅費法の改正だけではなく、SEABISの使いやすさの向上にも力を入れています。
2024年6月、各府省庁等で勤務する職員にSEABIS利用に関するアンケート調査を実施したところ、約8割が「不満」と回答しました。これは満足度が低めに出る傾向のある「NPS(Net Promote Score)」というアンケート手法を用いたことも影響していますが、旅費制度の複雑さだけでなく、SEABIS操作画面が使いにくいという課題を浮き彫りにしました。
今回のSEABIS改修では、このアンケートで見えてきた課題の改善も図っています。
たとえばSEABIS上で出張を申請する際、これまで経路検索の結果が複数表示されていたものを6候補に絞るようにします。また、宿泊料が基準額内かどうかも自動で判定するようにします。旅費の支払いまでの期間を短縮につなげるため、旅費業務にかかる日数を分析する機能も搭載します。
他にも、操作マニュアル・FAQ(よくある質問と回答)を自然言語で問合せ可能な生成AIチャットボットやSEABIS画面上への操作ガイドや操作要領 を表示するデジタルアダプションプラットフォームといった、最新の技術を活用した機能も新たに導入することを検討しております。
これについては、デジタル庁 SEABIS担務群 甲斐幹康主査がデジタル庁ニュースの動画で解説していますので、以下の動画をご覧ください。
現在、SEABISでは改正旅費法に対応した改修を進めていますが、さらに2028年度中には次期システムへのバージョンアップを実施します。
次期システムの環境形成においては、カスタマイズをせずに民間製品を導入することも視野に入れて取り組んでおります。
他システムとのデータ連携のためのハブシステムや政府特有の機能を持った補完システムを「ガバメントクラウド」(政府共通のクラウドサービスの利用環境)上に構築し、フロント部分となる旅費・謝金・物品管理システムと連携するアーキテクチャとする予定です。
旅費法の改正によって、複雑かつ煩雑だった国家公務員の旅費制度が簡素化され、民間企業の旅費業務により近づきました。今後もクラウドサービスの利用を促進して、さらなる業務改善につなげます。
改修に携わるデジタル庁 SEABIS担務群リーダーの砂押英幸プロジェクトマネージャーは、「どうすれば利用者の利便性が向上するか、日々検討しています」と話します。
「先の話になりますが、2028年度までに、次期システムとなるSEABISバージョン4へのアップデートを考えています。
バージョン4ではさらなるUI/UX改善に向けて、カスタマイズせずに民間製品を導入することやガバメントクラウドのメリットを最大限活用出来るシステムにできるよう、調査、研究を進めております」(砂押)
(デジタル庁 SEABIS担務群リーダーの砂押英幸プロジェクトマネージャー)
財務省、内閣官房行革事務局と連携し業務改善
旅費業務の改善には、SEABISのシステム改修に加えて、法制度や実際の旅費業務の見直しも必要です。それに向けて、デジタル庁だけではなく、旅費法を所管する財務省、旅費業務プロセスの見直しを行う内閣官房行政改革推進本部事務局の三者が協力し、改善の取り組みを進めています。
財務省主計局給与共済課の小谷陽課長補佐は、
「旅費法については、経済社会情勢の変化に対して、これまで主に運用の工夫などによって対応してきたことから、法律の例外的な取り扱いが増加してしまい、ルールの複雑化と運用の煩雑化を招いてしまっていました。旅費法の改正にあたっては、規定の整理・簡素化を行っていますので、業務改善にもつながると思います」
と説明します。
また、内閣官房行政改革推進本部事務局の池田智輝内閣事務官は、
「行革事務局では、すべての府省庁を対象にヒアリングを実施し、そこで得られた貴重な現場の声をもとに旅費業務プロセスの改善に取り組んでいます。その成果をSEABISの改修に活かしていければと考えています」
と話します。
三者のチームの取組について、砂押はこう語ります。
「我々SEABISチームのミッションとしては、職員の旅費業務を簡素化かつ快適にして、旅行者が主たる出張業務に集中できる環境をつくるということを掲げています。
システムの改修・更新だけでは、業務効率化は実現しません。今後もSEABISの利用者、利用各府省庁とコミュニケーションを取りながら、財務省、内閣官房行革事務局、デジタル庁が三位一体となって改善を進めていきたいと思います」(砂押)
(SEABIS大改修に臨む、デジタル庁・財務省・内閣府行革事務局の3人)
SEABISは、その使用経験やITリテラシーの有無に左右されることなく、政府職員の誰もが簡単に使いこなせることが理想です。デジタル庁では、今後も各府省庁と連携して、より使いやすいシステムを検討、改修を進める方針です。
(※所属・職名などは取材時のものです)
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