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デジタルで変わる暮らし AIで変わる行政サービス デジタル庁参与 上野山 勝也

生成AI(人工知能)をデジタル行政改革に生かしていく取り組みが進んでいます。

生成AIの導入によって行政と市民、行政組織内のコミュニケーションはどのように変化していくのでしょうか。

デジタル庁参与でAI領域のエキスパートである上野山勝也が未来像を語りました。

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さまざまな行政の仕事を行うAIのプロフェッショナル

デジタル庁参与 上野山 勝也

――デジタル庁参与としてどのようなプロジェクトに取り組まれているのでしょうか?

上野山 未来のソフトウェアとしてのAIを社会に実装していくということを、ここ十数年探求してきました。デジタル庁では、社会の仕組みや行政サービスのデジタル化・AI化を進めていくなか、これまでの知見をもとにいろいろと議論しています。

――デジタルやAIを社会実装するうえで欠かせない点は何だと思いますか?

上野山 デジタルで一番大切なのは、実は設計者の意思です。デジタルというと無機質なもの、人間的でないものと思われがちですが、デジタル技術のコアであるソフトウェアは文字通りソフトで柔らかいもの。人がやりたいと思うことを実現させるための手段です。

デジタル行政システムにおいても、市民のみなさまにどのような価値を提供したいかという行政関係者の思いを、デジタルを通じて届けていく基盤をつくるという前提が非常に重要だと思います。

――行政サービスにAIを活用することでどのような変化が生まれるのでしょうか?

上野山 可能性はとても大きいと思います。一例ですが、行政手続きで分からないことがあっても、役所や役場に問い合わせができるのは窓口が開いている時間だけですよね。

しかし、AIチャットをホームページに実装すると真夜中でもスマホやパソコンで質問できるので、「これは明日やればいいんだ」「手続きはオンラインで完結できるのか」と利用者のみなさまがいつでも判断できるようになります。

行政側にもAI実装の恩恵は大きなものがあると思います。AIチャットの利用情報が蓄積していくことで、市民のみなさまが何に困っているのか、どのような疑問を持たれることが多いのかを可視化できます。するとそこに共通の課題を見つけ出し、解決しようとする動きにもつながるのです。AIは行政サービス、あるいは民と官の関係性自体をより良くしていく可能性を秘めていると思います。

提供者と利用者が共に進化する「共進化」がキーワード

――行政サービスを利用する人々にはどんな変化がありますか?

上野山 すごくシンプルに言うと、行政サービスがより対話的になっていくというのが非常に大きな流れだと思っています。一方通行ではなくて、双方向で対話をしながらお互いが徐々に変わっていく。これをデジタルやAIを使って実現していくというところが非常に重要ですし、大きな変化だと思います。

また、デジタルに慣れている方ばかりでなく、不慣れな方であっても使いやすいシステムに仕上げていく必要があります。これまでも行政手続きをオンラインで済ませられるサービスはありますが、役所では使い方が分からない方に職員が横でサポートするという光景をよく目にしますよね。

デジタルに不慣れな方が分からなかったことは何かをしっかり分析し、より使いやすいものに仕上げていく。システム提供者と利用者が共に進化していく「共進化」がキーワードになると思います。

未来のソフトウェアは人の能力をエンパワーさせる

――AI活用が進んだ未来にはどのような世界がやって来ると思いますか?

上野山 基本的には良い社会になると思っています。個々人の多様性がより受け入れられるような社会になる。今は行政サービスのフォーマットが決まっているので、利用者がそれに従う形にならざるを得ないのですが、AI技術の活用によって利用者ごとにパーソナライズされた行政との対話が可能になるでしょう。

未来のソフトウェアは人の能力を消耗させるのではなく、むしろエンパワー(増強)させる形で社会に溶け込んでいき、未来はより人間的な社会になっていくと思います。

――AIは人と人の関わりを変えていくと思いますか?

上野山 生成AIを含めたAIが人間同士の関係性に関わり始めると、個人レベルのコミュニケーションのみならず、人が集まった組織や行政をも変えていく可能性を持っていると思います。つまり市民と政策の関係性すらも変えていける。今後向き合っていくには非常におもしろいテーマだと思っています。

【プロフィール】

デジタル庁 参与
上野山 勝也(うえのやま・かつや)

未来のソフトウェアの研究開発と社会実装をライフワークとし、人と共進化/対話をする多様なAIアシスタントを創業以来累計約2,600社に導入。ボストン コンサルティング グループ、グリー・インターナショナルを経て、東京大学松尾研究室にて博士(機械学習)取得後、2012年PKSHATechnologyを創業。内閣官房デジタル行財政改革会議構成員、内閣官房デジタル市場競争会議構成員、デジタル庁参与等の公務に従事し、社会におけるAI/ソフトウェアの在り方を検討。

(※所属・職名などは取材時のものです)


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