生成AIで地方公共団体のアナログ規制見直し効率化を模索、業務に使えるプロンプト案作成のヒント
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デジタル庁では、人の目や書面での対応を求める「アナログ規制」の見直しを各府省庁と連携して進めています。アナログ規制とは、現場における人の目による確認や、役所における公的情報の書面での掲示など、アナログ的な手法を前提とするルール(規制)のことです。
これまでに見直し対象となった国の法令等のアナログ規制は、ほぼすべての見直しを完了しました。地方においても人口減少による人手不足が急速に進展する中、今後は地方公共団体におけるアナログ規制の見直しが必要不可欠です。
特に地方公共団体が条例や規則を見直す場合は、その根拠となっている法令の確認など煩雑な作業が生じます。こうした作業の効率化に向けて、生成AIの活用が期待されています。
デジタル庁は2025年7月、地方公共団体職員を対象としたAI実装に向けたワークショップを開催。デジタル社会の実現を妨げる要因の一つとなっている「アナログ規制」を見直すために生成AIを活用する方法を模索しました。本記事ではワークショップでの実践例とプロンプト案作成上のポイントを紹介します。
※本記事で紹介するプロンプト案や、その作成上のポイントは、あくまで当該ワークショップ用にデジタル庁で用意したものをご参考までに紹介するものであり、デジタル庁として、これらを活用して生成AIから出力された情報の正確性を担保するものでも、生成AIの提示した方針等を推奨するものでも全くありません。各地方公共団体における規制の見直しに当たっては、各規制所管省庁からの一次情報も確認しながら、各団体が関係部署等と緊密に連携・協議した上で、自主的に判断する必要があります。
目次
実際の見直し作業に沿って実践 ワークショップでの取組

(「AI×地方のアナログ規制見直しワークショップ」の取組内容/デジタル庁の資料をもとにデジタル庁ニュースで作成)
地方公共団体におけるアナログ規制の見直し作業では、以下の3つの工程が想定されています。
1. アナログ規制の該当性判断: 該当条項がアナログ規制に該当するか検討する
2. 根拠法令の特定と見直しの方向性の検討: 該当条項の根拠となる法令を特定し、その法令等の趣旨等を踏まえた見直しの方向性を検討する
3. 条文案の生成: 条文の改正が必要な場合に、アナログ的な行為を求めている現行の規定について、デジタル技術を活用を妨げないような改正条文案を作成する
ワークショップでは実際の条文を題材に、その条文がアナログ規制に該当するのかを生成AIを用いて見直し作業に取り組みました。
生成AIを用いるにはプロンプト(生成AIに送る指示・命令文)が必要です。ワークショップでは、技術協力企業(日本マイクロソフト)とデジタル庁で共同で準備したプロンプトを素材に、同社からのプロンプトエンジニアリングに関するレクチャーをもとに、アナログ規制見直しの各工程を想定しながら、より適切な出力が期待できるプロンプトへの改善内容を検討。デジタル庁が公開している「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル」【第3.0版】(※外部リンク)(以下、庁マニュアル)や「アナログ規制見直し用例集」([PDF]/※外部リンク)(以下、用例集)、生成AIから得られた出力結果をもとに、プロンプト案の加筆や修正を重ねていきました。
ここでは、ワークショップにおける生成AI活用の実践例と各工程におけるプロンプト案作成上のポイントを紹介します。
(1)アナログ規制の該当性判断
このワークショップでは、以下の条例を例題としました。
◆例題の条例(※一例)
- 「駒ヶ根市公告式条例」(長野県駒ヶ根市)
(条例の公布)
第2条 条例を公布しようとするときは、公布の旨の前文及び年月日並びに条例番号を記入して、その末尾に市長が署名をしなければならない。
2 条例の公布は、市役所前掲示場に掲示して、これを行う。
まずワークショップの参加者たちは、これがアナログ規制に該当するかを判断するプロンプトの案を検討しました。
アナログ規制の判断は、アナログ的な行為を求める規定が条文に含まれるかどうかという点を出発点に行っていきます。デジタル庁では、典型的にアナログ規制に含まれる文言の事例を「検索キーワード」として規制の項目ごとに整理し、庁マニュアルに記載しています。
ワークショップでは庁マニュアルを活用し、プロンプト案を作成。生成AIから得られた回答が、アナログ規制の具体的な定義に基づいた内容となっており、アナログ規制に該当するか否かの判断に活用できるかを確認しました。
ある参加者は、生成AIに「アナログ規制の見直しを担当する職員」のペルソナ (※) を指定し、庁マニュアルを参照して判断するよう指示。添付資料やデジタル庁の各種資料等をもとに、例題の条文がアナログ規制に該当するかを客観的に判断するよう指示したところ、アナログ規制に該当するとの結果を得ました。
(※) ペルソナ:生成AIが応答する際に想定する人物像(職業、経歴、性格など)。
また、生成AIの判断結果の正確性を確かめるため、判断の根拠となったソースを明記してほしいという指示も入力。これによって、該当する根拠や庁マニュアルの掲載ページが示されるなど、出力結果の情報量が増えました。
プロンプト案作成上のポイント(アナログ規制該当性の有無):
- 生成AIに庁マニュアルや用例集などの資料を与え、アナログ規制とは何かを学習させる(例:「目視規制」や「実地監査規制」とはどういったものか)。これによって出力結果が単なるキーワード一致の結果にとどまらず、生成AIがキーワードの意味を理解した上で該当性について判断を下せるようになり、回答の品質向上を期待できる。
- 生成AIに規制類型ごとに該当可否を検討するように指示することで、より確度の高い回答を得やすくなる。
(例:例題となった条例は「書面掲示規定」に該当する可能性が90%以上ある一方で、他の規制類型には該当しない旨出力)。- 生成AIに対して「弁護士資格を持ち、地方公共団体の法規部門に所属する職員」など具体的なペルソナを与え、緻密な判断や資料比較が得意であるとの設定にする。
- 「Few-shotプロンプティング」(生成AIにいくつか事例を示す手法)を活用することで、生成AIは一貫した形式で回答を生成しやすくなる。
(2)根拠法令の特定と見直しの方向性の検討
次に、アナログ規制に該当すると判断された条項について、どのような根拠に基づいて規定されているのかを特定した上で、それらの趣旨・目的や国における見直し内容などを確認し、それらと齟齬しないような形で条例の見直しの方向性を検討します。
ワークショップでは、この作業に生成AIを活用できるかを実践しました。ここでは庁マニュアルにある規制根拠の分類や見直しの方向性が活用されました。
【参考】規制根拠の分類(庁マニュアル【第3.0版】(全体版)P29~30)
- a規制: 国の法令等に基づいて定めている規制(市区町村の場合は都道府県の条例等に基づくものを含む)
- b規制: 自団体の条例等に基づいて定めている規制
- c規制: 国の法令等を参照しつつ、自団体の条例等に基づいて定めている規制
【参考】見直しの方向性(庁マニュアル【第3.0版】(全体版)P42~43)
- a-1:要見直し(条文の改正が必要)
- a-2:要見直し(通知の発出等による解釈の明確化が必要)
- a-3:要見直し(今後運用の変更のみを行う)
- b-1:見直し不要(現状でアナログ的な手段に限定されていない(既に運用まで変更済み))
- b-2:見直し不要(現状でアナログ的な手段に限定されていない(直ちに運用の変更は困難))
- c-1:見直し否(アナログ的な手段に限定することが適当)
- c-2:見直し否(活用可能な技術等が現時点では不存在)
- d:継続検討
ワークショップでは、ある参加者がアナログ規制に該当する条文部分のみを生成AIに読み込ませた状態で規制根拠を質問したところ、「見直し不要、または見直し否」と判断されました。
そこで、改めて根拠法令に関する部分を読み込ませた上で質問すると、生成AIは「a規制に該当する」と正しい判断をしました。生成AIから正確な結果を得るためには、必要十分な情報を入力することが重要です。
プロンプト案作成上のポイント(根拠法令の特定と見直しの方向性の検討):
- プロンプトは「根拠法令の特定」「規制根拠の分類」「見直しの方向性」の三段階に分割して組むことを推奨する。上流のプロンプトが誤ったままだと下流にも影響し、誤差が大きくなる。プロンプトを分割することで各ステップでの出力内容をチェックしやすくなる。
- 「要見直し」の方向で検討する際、条文改正まで必要か、通知等の発出や運用の変更で足りるのかという判断が必要になる(a-1、a-2、a-3のいずれの方向性か決める)。デジタル庁ではアナログ的な手法とデジタル手段のいずれも選択できるような規定を「技術中立的な規定」と整理。この規定は必ずしも条文の改正を必要とせず、通知の発出や運用の変更での対応も可能としている。加えて、規制分類ごとに検討すべき要素も異なるため、庁マニュアル(【第3.0版】(全体版)P44~46)を参照されたい。
(3)条文案の生成
このパートでは、以下の例題の条例について改正が必要なケースを念頭に、条文の改正案作成に生成AIを活用することを想定したプロンプト案も検討しました。
◆改正案を作成する対象の条文
2 条例の公布は、市役所前掲示場に掲示して、これを行う。
(長野県駒ヶ根市「駒ヶ根市公告式条例」)
ある参加者は、生成AIに対して「弁護士資格を有している」とペルソナを指定。その上で「類似の改正例があれば、それを参考にするように」と指示しました。これにより条文の模範的な改正案が出力されました。
生成AIが示した改正案は、「ウェブサイト上への掲示を原則とするが、これが困難な場合は役所前に掲示できる」という内容でした。参考例として示されたのは、実際に地方公共団体で施行されている改正条文でした。従来のアナログによる掲示方法とデジタルによる掲示の併存を認めている柔軟な条文である点を重視し、生成AIが根拠として用いました。
別の参加者は、「用例集を参考資料とした上で、デジタル技術を活用可能な条文に書き換えるように」と指示。例題となった条例の全文も読み込ませました。当初はウェブサイトへの掲示に限定した改正案が出力されましたが、プロンプトを調整したことで、例外規定としてアナログ手段を含んだ回答も生成されました。
加えて、3パターンの改正案を検討するように指示したところ、「デジタル原則のウェブ型」「デジタルとアナログの併存型」「デジタル優先・例外としてアナログ規定型」が出力されました。
プロンプト案作成上のポイント(条文案の生成):
- 条例のパターンを複数想定しながら調整することを推奨。
(例:公告式条例の掲示場の掲示に関する規定は、原則インターネットとしてアナログ手段を例外とする場合や、その両方を義務づける場合など、様々な規制のあり方があり得る)。- 生成AIを業務で活用する場合、「構造化プロンプト」使用は大前提となる。
- 構造化プロンプトとは、生成AIの回答精度の向上を目的に、特定のルールや要素(役割や目的、制約や条件、出力形式など)を明確に区切って指示文を記述する手法のこと。
(例:漠然と条文案を検討するよう指示するのではなく、「命令」「対象例規」「役割」「出力形式」といった見出しを付して指示文を記述する)。- 構造化プロンプトは生成AIへの指示を体系的に整理していることから、出力内容の重複や長文化を防ぐことができる。
- 構造化プロンプトを用いる場合、生成AIへの指示にはコツが必要。例えば、キーワードをアスタリスク二つ(**)で囲むことで、生成AIに重要性を強調して指示できる。また、プロンプトをハイフン三つ(---)で区切ると、生成AIがプロンプトごとのセクションを明確に認識しやすくなる。
- 出力された情報の確度が低いと思われる場合、「わからない」と回答して良い旨を生成AIにインプットすると、不正確な出力を防ぎやすくなる。
- 回答の精度が不確かな場合、複数案の出力を指示することで精度が向上する可能性がある。
- 出力結果に対して、番号を振った上で箇条書きで出力するよう指示すると、特定の項目の詳細をさらに尋ねる指示を出しやすくなる。
生成AIを活用しやすい環境整備へ 地方公共団体への展開も視野に検討

(当日のワークショップの様子。グループごとに生成AI用のプロンプトを作成した)
今回のワークショップによって、アナログ規制見直しにおける生成AIの活用は、人間が判断するために必要な情報を分かりやすく提供する「補助ツール」として非常に有用 という手ごたえを得られました。
デジタル庁は今後、ワークショップで得られた知見なども活用しながら、地方公共団体向けに、アナログ規制見直しに生成AIを活用しやすくなるような環境整備に向けて、プロンプト例の作成や知見の横展開などに取り組む方針です。
また、こうした取組のほか、デジタル庁では、庁内の全職員向けに生成AI検証環境を内製開発し、2025年5月から展開しています。行政実務用AIアプリが特徴で、国会答弁検索AIや公用文チェッカー、法制度調査支援AI(Lawsy)など約20種類を提供しています。また、地方公共団体向けのAI展開についても視野に入れ、現在検討を進めています。
動画コンテンツでは、ワークショップの参加者が実際に生成AIの活用について議論する様子などを紹介しています。活気ある当日の様子をぜひご覧ください。
動画の内容をテキストで読む●関連情報は、以下のリンクをご覧ください。
- アナログ規制見直しの取組|デジタル庁(※外部リンク)
- 地方公共団体におけるアナログ規制の見直しに対する個別型支援事業|デジタル庁(※外部リンク)
- 技術カタログの整備|デジタル庁(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、アナログ規制見直しに関する記事を掲載しています。以下のリンクをご確認ください。
- 【住民の不便を解消!】福岡市が行った“アナログなルール”の見直し|デジタル庁ニュース
- 【アナログ規制の見直し】 沖縄県糸満市への「個別型支援」に密着取材 |デジタル庁ニュース
- RegTechで3.6兆円の経済効果!「アナログ規制見直し」が日本の未来を変える|デジタル庁ニュース
- RegTechが支えるインフラメンテナンスの未来|デジタル庁ニュース
●デジタル庁ニュースでは、AIに関連する記事を掲載しています。以下のリンクをご覧ください。
●デジタル庁ニュースの最新記事は、以下のリンクからご覧ください。