スマホが苦手でも大丈夫。石川県加賀市で広がる「シニアがシニアを支える」やさしいデジタル支援
- 公開日:

(2025年度、加賀市では「スマホよろず相談所」を週2回開催)
石川県加賀市では、高齢者のデジタルデバイド(情報格差)対策の一環として、シニア世代のボランティア「シニアスマホアンバサダー」がスマートフォンの使い方を教える「スマホよろず相談所」を定期的に開催しています。シニアスマホアンバサダーは、国のデジタル推進委員にも任命されています。
相談所では専門知識を持つ講師とシニアスマホアンバサダーが連携し、利用者の相談に応じる体制を整えています。同世代だからこそ生まれる共感と温かい雰囲気が、デジタル支援にとどまらず、地域住民のつながりを生み出している点も特徴です。
デジタル庁ニュースでは、デジタル推進委員としても活動するシニアスマホアンバサダー3人に日々の活動についてインタビューしました。また、制度を支える加賀市の担当者、シニアスマホアンバサダーと連携して相談所の運営に携わる講師にも取組の背景や効果について聞きました。
鉄道会社でタブレット端末を活用した経験。47年ぶりのUターンが地域のデジタル支援につながった(立見さん)

(加賀市シニアスマホアンバサダー、デジタル推進委員の立見征二さん)
立見:
シニアスマホアンバサダーになったきっかけは、市の広報誌で募集を見つけたことです。私は加賀市出身ですが、47年間県外で暮らしていました。退職を機に5年前にUターンし、「何かしようかな」と思っていたとき、ちょうど募集の告知を目にしました。
もともと鉄道会社で運転士をしていたので、タブレット端末などを業務で使っていた経験がありました。iPhoneも発売当初から使っていましたから、「何かお助けできることがあるかも」と思い、応募を決めました。
印象に残っている相談の一つは、新しいスマホを持って来られた方からの「これ、どうやって電話をかけるん?」というものでした。それまでガラケーを使っていた方が、携帯ショップでスマホへの機種変更を勧められたようです。おそらくお店で説明を受けたと思いますが、家に帰ってからわからなくなってしまったのではないかと思います。
こうした相談に応じる上で、スマホに触り慣れていない方には「簡単には壊れませんから、まずは触れてみてください」と伝えています。包丁やネジ回しといった道具と同じですから、どんどん使いましょう、と。スマホを通して少しでも楽しいことが見つかれば、家に帰ってからも使っていただけると思います。相談が終わった後に「ありがとうございます」「よくわかりました」と言っていただけることが楽しいし、嬉しいですね。
難しいことを聞かれることもありますが、その時は自分で調べて勉強しています。スマホ自体が進化しますから、私もどんどんついていかないといけません。シニアスマホアンバサダーという立場が自分自身の学びにもつながっています。これからも、腰痛で動けなくなるまではやりたいと思っています(笑)。
石油会社でパソコンに出会い、退職後もExcelを活用。同世代の感覚を大切にしながら相談者をサポート(山野さん)

(加賀市シニアスマホアンバサダー、デジタル推進委員の山野ちさ子さん)
山野:
私は市が開催していたスマホ教室で運営ボランティアをしたことがシニアスマホアンバサダーになったきっかけです。"世界最高齢"プログラマーとして知られる若宮正子さんの講演がこの教室で開かれることになり、それをぜひ聞きたくて、ボランティアに応募しました。
一年ほどでスマホ教室の活動は終了しましたが、その後、市の職員から「ボランティアの経験を活かして、シニアスマホアンバサダーをやりませんか」と声をかけていただきました。自信はありませんでしたが、「相談者の方に寄り添う気持ちがあれば大丈夫ですよ」と背中を押していただき、挑戦してみることにしました。
若い頃に勤めていた外資系の石油会社でパソコンに出会い、退職後も自営業の経理作業や従業員さんの給与計算のためにExcelでマクロを組むなど、デジタル機器には慣れ親しんでいたことも後押しになりました。現在は刺繍が趣味で、他の方の作品をPinterestで見たり、畑作りをYouTubeで学んだりと、日常的にスマホを活用しています。
これまではアプリの使い方がわからないという相談が多かったのですが、最近では「このアプリは生活の中でどう活用できますか」と質問される方もいて、相談の幅が広がっていると感じます。たとえばYouTubeであれば、ただ動画を見るだけではなく、もっと日常で活用したいという方が増えていますね。そんなときは「私は畑作りの参考にYouTubeを使っていますよ」と、自分の経験をお伝えしています。
相談に応じる時には、できる限り「自分でやってみてください」と伝えています。年齢を重ねると一度聞いたことがなかなか思い出せなくなりますが、一度でも自分の手でやっておくと、思い出しやすくなります。同世代だからこそ、その感覚がよくわかるのです。私自身も記憶力の衰えを感じることもありますが、講師のサポートもありますし、これからも続けたいと思います。
大阪から移住し、シニアスマホアンバサダーに。パソコン講師の経験を地域のデジタル支援に活かす(岸本さん)

(加賀市シニアスマホアンバサダー、デジタル推進委員の岸本博子さん)
岸本:
私は大阪出身で、長年パソコン講師として活動し、企業のホームページ制作や集客支援などにも携わってきました。コロナ禍でリモートワークが進んだことをきっかけに移住を考え始め、教育に力を入れている加賀市に魅力を感じて4年前に移住してきました。
移住後、加賀市が国家戦略特区の一つである「デジタル田園健康特区」に指定されたことを知りました。「私にも何か貢献できることがあるのではないか」と考えていたときにアンバサダーの募集を知り、応募しました。
最初は文字の入力やLINEの使い方など、基本的な操作からスタートしました。それがだんだんと高度になってきて、地元のお店やバスで使うアプリ、銀行のインターネットバンキングなど、日常生活で使うものの相談が増えてきました。最近ではChatGPTについて聞かれることもあり、私も一緒に調べながら教えています。
こうした相談に応じる上で、楽しく、質問しやすい雰囲気を作ることを心がけています。難しい専門用語はなるべく使わず、相談者の方と同じ目線で会話するようにしています。親しくなると方言が出る時もあるのですが、それも含めて気軽に話せる関係を大切にしています。
活動を通じて感じるのは、相談に来てくださる方がどんどん増え、皆さんがスマホを使いこなせるようになっていく姿を見られることの喜びです。これからも「誰一人取り残されない」社会に向けて、少しでも貢献できれば嬉しいです。
気軽に相談できる同世代がいる環境を。シニアスマホアンバサダーが生まれた背景

(加賀市地域デジタル課の川口主事と米丸主事)
シニアスマホアンバサダー制度が生まれた背景やこれまでの効果などについて、加賀市地域デジタル課の川口実優主事と米丸千恵主事に、またシニアスマホアンバサダーと講師の連携について、相談所で講師を務める株式会社インテトラス(加賀市の業務委託先)の村中宏彰氏にそれぞれ話を聞きました。
――「スマホよろず相談所」を立ち上げた経緯について教えてください。
川口:
加賀市では行政手続のオンライン化などスマートシティ化を進めてきましたが、デジタル化を進めるほど、機器の操作に不慣れな高齢者の方々が置いてきぼりになってしまう状況がありました。便利になるはずのデジタル技術がかえって市民の間にデジタル格差を生んでしまう……それでは本末転倒になってしまいます。
誰一人取り残されないスマートシティを実現するために、行政の窓口だけではなく、より市民の皆様に近いところで支援したいと思い、市民同士の支え合い、特に同世代によるサポートに着目しました。
米丸:
高齢者の方々にとっては、市役所に相談するのはハードルが高いイメージもあると思います。携帯電話ショップに相談するにも有料の場合もあったり、並ぶ必要があったり、店員と年齢が離れていて相談しにくいと感じたりすることもあります。
より近い存在の同世代の方と「これわかりにくいよね」と一緒に話しながら相談できる方がハードルは低くなると考えました。
――相談所の運営体制について教えてください。
川口:
加賀市地域デジタル課の担当者2名、業務委託先である株式会社インテトラスの講師1名、シニアスマホアンバサダー12名の体制で実施しています。シニアスマホアンバサダーは、市が応募者と面談し、基本的なスキルや意欲を確認した上で任命しています。その上で、相談所の現場運営やアンバサダーの皆さんの活動管理はインテトラスに担っていただいています。
70代~80代を中心に利用。相談内容から見えるシニア世代のニーズとは

(スマホよろず相談所の様子。LINEの使い方に関する質問のほか、動画アプリの利用方法に関する相談が寄せられることも)
――実際の利用者層や相談内容について教えてください。
川口:
2025年度は週2回、各回午後2時~4時で開催しました。相談は予約制で1回30分。1日あたり最大6人の相談を受け付けています。平均すると1日4人ほどが相談に来られます。年齢層は、2024年度は70〜75歳の利用が40%を占めており、75〜80歳が20%、81〜85歳が20%です。
村中:
相談内容の傾向としてはLINE関連の質問が多いです。また、確定申告の時期になると、税務署への相談予約の方法をよく聞かれます。最近は相談予約がオンライン化されているため、そのやり方の質問が増えていますね。
米丸:
最近は銀行の地域通貨アプリの使い方や、商店のスタンプカードが紙からアプリに変わったので「どうやったら良いですか?」といった相談も多いです。お金やポイントが貯まることなど、暮らしに密着したデジタルサービスがはじまると、積極的にスマートフォンを使うきっかけになるようです。
現場の声が行政を動かす。講師とシニアスマホアンバサダーの連携メリット

(スマホよろず相談所で講師を務める株式会社インテトラスの村中氏)
――行政と地域住民が連携したデジタル支援を行うことで、どのようなメリットが見えてきましたか。
川口:
デジタルサービスを提供するだけではなく、市民の皆さんがどこでつまずいているのか、現場の声を直接聞くことができるというメリットがあります。高齢者の方々が直面しているささいな疑問や不安は、私たちだけでは把握しきれません。地域住民の皆さんと連携することによって、サービスの改善にもつながると思います。
村中:
相談所の立ち上げ当初は私が相談に応じ、アンバサダーの皆さんには補助として手伝っていただいていました。一年を過ぎた頃から皆さんが相談対応に慣れてきて、現在はお一人で相談を担当いただいています。地域ごとのアプリやお得な情報などは皆さんの方が私よりも詳しいので、とても助かっています。
――相談所を起点に、地域住民同士の交流が促進されるといった効果も生まれているようですね。
川口:
アンバサダーの中に民生委員をやっていらっしゃる方がいて、相談者に対してスマホ以外の生活相談を実施しているというお話を伺っています。
他にもアンバサダーがお住まいの地域では、喫茶店でお茶を飲んだり世間話をしたりしながらスマホの使い方を教え合う、サロンのような集まりもあるそうです。かっちりした講習会だと聞きづらいと感じる方もいらっしゃいますが、世間話しながらのやり取りだと相談のハードルがぐっと下がるようだと伺っています。

(マイナポータルなどの利用方法をわかりやすく図で紹介している)
――今後の目標と、同様の取組を検討している自治体へのアドバイスをお聞かせください。
米丸:
「誰一人取り残されない」ということを目標にやってきましたが、まだ相談所自体を知らない方もたくさんいらっしゃるので、もっと広めていけたらと思います。そのためには、実施する場所や周知の方法を変えてみることも考えています。
川口:
これから同様の取組を検討される自治体に対しては、「地域の人の力を信じて」とお伝えしたいです。支援が必要な方々にとって、気軽に話せる同世代がいること、そして実際に話せる場所があることは大きなことだと思います。日常の中で「ちょっと聞いてみようかな」と思える温かい関係性を築くことが重要です。
単にスマホを使える市民を増やすだけではなく、デジタルという手段を通じて市民一人一人のウェルビーイングを向上させることが私たちの目標です。そのためにも、この取組がどんどん広まっていけばいいなと思っています。
(※記事内容は取材当時の情報に基づきます)
●デジタル庁では、デジタル機器やサービスに不慣れな方へのサポートに役立つデジタル情報をまとめたページ「教える人のためのデジタル情報ひろば」をご用意しています。
デジタル推進委員をはじめ、住民の方へご説明いただく際などにぜひご活用ください。
- 教える人のためのデジタル情報ひろば|デジタル庁(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、各地で活動するデジタル推進委員の取組を紹介しています。過去のコンテンツは以下のリンクをご覧ください。
●デジタル庁ニュースの最新記事は、以下のリンクからご覧ください。