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「楽しい」が世代をつなぎ、地域を動かす。島根県のデジタル推進委員・デジタル拠点が紡ぐ産学官民の循環

ゲームの中に教室を作り不登校の子どもたちを支援する人、過疎の町に「なんでも聞けるお兄さん」として根ざす移住者、近所のおばあちゃんの困りごとに気づいた大学生——。デジタルをきっかけに地域の課題解決に向き合うデジタル推進委員たちが、島根県で生まれています。

こうした草の根の活動を支えているのが、島根県が推進する「産学官民の力×デジタル」の戦略です。デジタル拠点の整備とデジタル推進委員の育成を両輪に、誰一人取り残されないデジタル社会の実現を目指しています。

デジタル庁ニュースでは、島根の現場で活動する3人のデジタル推進委員と、県全体の取組を担う島根県の担当者を取材しました。それぞれの現場から、デジタルの力で地域を盛り上げる島根の姿を伝えます。

eスポーツ大会の開催が、地域デジタル支援の出発点に(木村さん)

インタビューに応じる木村一彦さん。立った状態で両手を胸の前に上げて身振りを交えながら話している。背景には白いゲーミングチェアとガラス扉の施設入口が見える。
(アンジェ21、島根県eスポーツ連合 木村一彦さん)

木村:
私は出雲市で結婚式場を運営する会社に勤めています。コロナ禍で結婚式の開催数が激減した時期、以前から趣味でやっていたeスポーツの大会を式場で開催したことが、デジタルと地域をつなぐ活動の出発点になりました。

eスポーツを通じて若い世代と接点ができ、社員のITリテラシーも自然と向上していく中で、地域のデジタル支援に取り組むようになりました。2021年には島根県eスポーツ連合を立ち上げ、eスポーツやデジタルを活用した地域課題の解決に取り組んでいます。

eスポーツを教育課題の解決に活かせないかと県に相談したことをきっかけに県地域振興部の望月恵係長と出会い、私自身もデジタル推進委員として任命されました。社員の中にも、デジタル推進委員として地域のデジタル支援に取り組む仲間が増えています。

ゲームが学びの場に。デジタル推進委員として挑む教育支援

木村:
総務省のデジタル活用支援推進事業の一環で、社員を講師として山間部の地域に派遣し、スマホ講座を開催したところ、大変好評でした。高校のeスポーツ部員の学生さんにも講師として参加いただき、高校生にとっては地域貢献の経験や実績にもなっています。

また、不登校児童の支援としてメタバースの中に教育支援センターを作り、実際に授業を受けられるようにしました。「こういう授業なら受けてもいい」という声も多く聞かれました。

また、松江ろう学校ではメタバースを利用した農業DXの体験やアバター制作体験を実施しました。この取組は県西部の浜田ろう学校にも波及し、同校ではしまね海洋館アクアスの生き物を紹介する手話動画の制作にも取り組んでおり、学生たちは「デジタルを使えば色々な学習や発信ができる」と実感しているようです。

これからも地域の教育や課題に継続的に関わっていきたいですね。産官学民の活動が互いに支え合う形が、これからのデジタル支援の一つのモデルになればと思っています。

東京から人口約2,900人の町へ。デジタルで地域をつなぎ、町を動かす(城所さん)

モニター画面に映し出された一般社団法人asolabマネージャーの城所佑志さんとのビデオ通話画面。背景には観葉植物と白い陶器の花瓶、本が置かれたロー棚が見える。
(一般社団法人asolabマネージャー 城所佑志さん)

城所:
島根県の中央に位置する人口約2,900人の自治体、川本町でデジタル拠点を運営しています。私自身は東京出身で、コロナ禍のタイミングで島根県の森林組合に転職し、移住しました。

移住当初から、地域のデジタル環境には課題がありました。ネット回線を引くのがそもそも大変で、Wi-Fiやインターネット回線がない家庭もかなりあると聞き、「これは大変だな」と感じました。

趣味のeスポーツがきっかけで島根県eスポーツ連合の木村さんと出会い、川本町でも三世代を取り込んだeスポーツイベントを開催しました。

町の人口が少ないので行動が家族単位になることが多く、子どもたちはゲームを楽しみ、親や祖父母世代はスマホ教室を受ける形にしました。川本町には携帯キャリアの店舗がなく、スマホのことを誰に聞いたらいいのかわからず困っていた方も多く、大変好評でした。

地域の困りごとをデジタルで解決できないかと動き始めたところ、「Wordを教えて」「Excelを教えて」と言われるようになり、「なんでもできる人」というイメージになっていきました。

デジタル推進委員と拠点が、町に安心感と「居場所」をつくった

城所:
デジタル推進委員になったことで、体系的にデジタル推進委員制度やデジタル拠点の取組を紹介できるようになったのは、自分にとって大きかったです。2024(令和6)年に正式にデジタル拠点ができたことで、「公の場所」として相談しやすくなり、来る方も非常に増えました。役場に行くのは少しハードルが高いと感じている方にとって、「近所のなんでも聞けるお兄さん」として役に立てればと思っています。

現在は高校生や小学生、地域の方が日常的に立ち寄る場所になっています。川本町はその小ささがゆえ、デジタルをフックにして心を通わせる場所、安心感を提供しているイメージです。

今後は高校生がスマホ教室を教える側になれるような仕組みを作り、デジタル推進委員も増やしていきたい。小さい町だからこそ、デジタルの力を大きく広げていけると思っています。

「おばあちゃんがスマホで困っている」その気づきがデジタル推進委員への一歩に(石川さん)

インタビューに応じる石川楓さん。背景は木材の柱や引き戸が見える和室で、温かみのある照明が空間全体を柔らかく照らしている。
(島根県立大学4年 石川楓さん)

石川:
私は茨城県の出身で、大学進学で初めて島根県に来ました。大学1年のときは浜田市の大学付近で暮らしていたのですが、家賃が高く人との交流も少ないと感じていました。知り合いのつながりで都野津町のおばあちゃんに「下宿していいよ」と声をかけてもらい、江津市の都野津町に住むことになりました。

そこからおばあちゃんつながりでいろんな人とつながり、お祭りや女神輿など地域の行事にも参加しました。暮らしていく中で、お年寄りの方たちがスマホの使い方で困っているんだなと気づきました。隣の90歳ぐらいのおばあちゃんがタクシーで20分かけて携帯ショップまで行って、電源が落ちたときの入れ方を聞いたりしていて。私や友達が教えられるのになと思いました。

デジタル推進委員のことを知ったのは、知り合いの江津市議さんからです。「デジタル庁のデジタル推進委員に推薦してもらえるらしいよ」という話で調べてみたら、まさに自分がやりたいことだと思い、講座 (※) を受けました。

(※) 島根県が独自に実施しているデジタル活用講師育成事業の講座。講座の受講など、要件を満たした方を、デジタル推進委員として、国に推薦することとしている。

毎週水曜は「なんでも聞ける日」。デジタル拠点が、世代をこえた交流の場に

スマートフォンに表示されたアプリ「alarmath(アラーマス)」のトップ画面の写真。目覚まし時計のイラストと2つのボタンが表示されている。画面中央には手書き風のタッチで描かれた黄緑色の目覚まし時計のイラストと、右側に黄色い稲妻マークが描かれている。アプリ名「alarmath」は手書き風フォントで上部に表示されている。画面下部には「問題を解く」と「アラームを設定」の2つのボタンが横並びに配置されている。
(アラームアプリ「アラーマス」。数学の問題を解かないと目覚ましが止まらない仕様)

石川:
ちょうどその頃、都野津町にデジタル拠点「つのづベース」ができました。毎週水曜日はここにいて、来てくれたおじいさん・おばあさんの相談に乗っています。アプリのアップデートの仕方、Wi-Fiのつなぎ方、LINEで写真を送りたいなど、身近な相談が多いです。

教えるときは、次に会ったときには一人でもできるように、わかりやすく伝えることを心がけています。スワイプ、アップデートといったカタカナの用語は伝わらないので、言い換えて伝えることも講座で教わりました。

拠点にはeスポーツに取り組む高校生や小中学生も訪れ、世代を超えた交流が生まれています。中にはブロックを積み重ねてアプリが作れるソフト(MIT App Inventor)を使い、数学の問題を解かないと目覚ましが止まらない「アラーマス」というアプリを開発した学生もいます。

最近は拠点にレーザーカッターも導入されたので、近所のクリエイターの方とコラボして、子どもたちのものづくりの場も作りたいと思っています。

デジタルで「取り残される人」を少しでも減らす、島根県の挑戦

3人の活動の背景には、島根県が推進する「産学官民の力×デジタル」の戦略があります。島根県地域振興部地域政策課デジタル戦略室の望月恵係長に、県全体の取組を聞きました。

インタビューに応じる島根県の望月係長。背景は木材の柱や引き戸が見える和室で、温かみのある照明が空間全体を柔らかく照らしている。
(インタビューに応じる望月係長)

「島根県ICT総合戦略」が描く3つの柱

――はじめに、島根県のデジタルに対する取組について教えてください。
望月:
島根県では2022(令和4)年3月に策定された「島根創生計画」の中で、「島根県ICT総合戦略」を定めました。「県民の利便性向上と行政の効率化」「ICTの利活用による島根創生の推進」「デジタルデバイド対策」の3つが基本方針です。

国として、デジタルを活用して地域課題を解決し、新たなサービスやビジネスモデルを生み出していく方向性が示されています。また、産学官民の連携に加え、デジタルを積極的に活用していくことが盛り込まれています。こういった動向を背景に、島根県でも「産学官民の力×デジタル」に重点を置いて取組を始めました。

「産学官民×デジタル」が、地域課題を解く鍵になる

島根県のデジタル推進に関するR4〜R7年度の取組経緯と施策をまとめたスライド資料。 タイトルは『2.島根県の取組(産官学民の力×デジタル)』。年度別に以下の内容が記載されている。  R4年度:自治体内部のデジタル化本格化・マイナンバー普及による行政手続きのオンライン化が進展。課題としてデジタルデバイドによる生活格差拡大。対策としてスマホ教室の開始と「デジタル活用講師育成(デジタル推進委員育成)」の開始。右側の吹き出しに『産官学民の力の芽生え』と記載。  R5年度:地域社会DXの本格化、生活空間へのデジタル浸透による格差拡大が課題。対策として「デジタル推進委員×デジタル拠点」による学び合い構想。右側吹き出しに『産官学民の力の本格化』と記載。中央の吹き出しに「サードウェーブ様より企業版ふるさと納税のお話を頂く!!」と記載。  R6年度:松江・江津・川本にデジタル拠点を構築し、産官学民での学び合い開始。産官学民体制の整備。  R7年度:デジタル拠点の認定制度開始。産官学民による地域社会課題解決の本格化として「Shimane Digital Social Innovation Challenge補助金」の開始。右側吹き出しに『産官学民で地域社会課題解決』と記載。
(島根県資料より)

――具体的にどのようなことから始めたのでしょうか。
望月:
2022(令和4)年度に自治体内部でのデジタル化が本格化し、マイナンバーの普及によって行政手続のオンライン化が進みました。ただ、スマホを使える人は便利になる一方で、使えない人は手続に時間がかかるなど、生活格差が拡大していきました。

デジタルデバイド(情報格差)対策としてスマホ講座などの開催が考えられますが、行政だけでスマホ教室を実施し続けるのは困難です。財政規模が小さい島根県だからこそ、住民や民間と力を合わせる共助の仕組みが不可欠だと考えていました。

ちょうどその頃、アルメニアに出張した出雲市の職員から、デジタル学習センター「TUMO(ツーモ)」が世界各地に設置されているという話を聞きました。これを島根県でも取組として活用できないか、と。そこで、地域振興部として脈々と受け継いできた地域づくりの視点を活用しつつ、デジタル拠点の構築とデジタル活用講師育成事業を開始しました。この事業の中で、講座の受講など要件を満たした方を、国のデジタル推進委員に推薦しています。

デジタル推進委員を増やすこと、そして地域にデジタル拠点を設置することにより、産学官民の連携を強化し、学び合いの構想を立てていたところ、eスポーツを活用した地域課題解決に取り組んでいた島根県eスポーツ連合の木村さんとの出会いがきっかけとなり、2023(令和5)年度に株式会社サードウェーブ様から「企業版ふるさと納税」を活用した寄附をいただきました

その資金を活用し、2024(令和6)年度に松江市、江津市、川本町にデジタル拠点を構築。2025(令和7)年度はデジタル拠点の認定制度も開始し、自治体や民間のデジタル拠点の構築も進んでいます。

「楽しい」が循環する。デジタル拠点と推進委員が生む地域のつながり

築100年超の古民家を改修して生まれた島根県江津市にあるデジタル拠点「つのづBase」の一室。障子や土壁、木製の梁が残る和室を改装したゲーミングスペースで、3人の若い男性(いずれも後ろ姿)が椅子に座り、デスクに並んだ複数のPCモニターに向かっている。デスク上にはゲーミングキーボード、ウェブカメラ、ヘッドセットなどの周辺機器が置かれており、伝統的な和の空間とハイテク機器が混在した独特の雰囲気を持つ。
(島根県デジタル拠点サービス提供者認定拠点「つのづBase」でアプリ開発やeスポーツに取り組む学生たち)

――デジタル拠点の構築によって、変化したことはありますか。
望月:
2022(令和4)年度にデジタル活用講師の育成事業を開始した当初は、知人に声をかけて講座を受けてもらうような状況でした。一方で、デジタル拠点が開設されてからは、地域の人が年齢に関係なく集まれる「居場所」になりました。

特に高齢者に向けたスマホ講座で「高校生と一緒に学ぼう」という企画を行った際には、応募者も多く、たくさんの方が集まりました。デジタルを学ぶことも目的としてありますが、デジタル拠点が世代間交流の場にもなったことを感じています。

高校生や大学生など若い世代は、自分たちにとって当たり前のことを教えて役に立てているという実感を持つことができたと感じている人も多いです。そこから、デジタル活用講師の講座を受講し、デジタル推進委員になる例も多数出てきています。現在高校生を含め70〜80名程度が認定済みで、非常にいい循環が生まれていると感じています。

島根県は歴史的に、教育に力を入れてきた県でもあります。今後はデジタルを活用し、さらに教育面との連携も進めていきたいと考えています。県立の松江ろう学校、浜田ろう学校では、モーションキャプチャーを利用したアバターで手話による発信にも取り組んでいます。

(松江ろう学校の学生・Yさんが制作した動画「聴者とろう者のコミュニケーションに関する文化の違い」/島根県立松江ろう学校

「スイミー」のように。これからも仲間を増やし、島根を盛り上げる

築100年超の古民家を改修して生まれた島根県江津市にあるデジタル拠点「つのづBase」の様子。左側は外観写真。赤茶色の瓦屋根と白漆喰の壁を持つ日本の伝統的な古民家。玄関には藍染めの暖簾がかかり、石畳のアプローチがある。右側は内装写真。木製テーブルと畳の座敷の空間。壁面には波紋や折り鶴、幾何学模様をあしらった透かし彫りの木製パネルが施されている。
(築100年超の古民家を改修して生まれた「つのづBase」。デジタル拠点、地域交流の拠点として活用されている)

――理想とする産学官民の姿に近付いている状況ですね。
望月:
その通りです。地域の課題は何か、というのは住民の方が一番よくご存じです。県が課題を見つけて予算を通して……と段階を踏んでいくと、1年から1年半ぐらいかかってしまいます。

デジタル拠点をプラットフォームとしてもらって、住民の方が「楽しい」と思える街にして、活気を取り戻す。「何かをやりたい」と思っている方たちを応援するのが、行政の役割だと思っています。

今後は民間のデジタル推進委員、デジタル拠点をさらに増やし、仲間を増やして島根を盛り上げていきたいですね。現在、大企業・スタートアップ・市町村・デジタル専門家など約300名が参加するオンラインコミュニティを構築しています。デジタル推進委員・デジタル拠点と、このコミュニティを結びつけることで、地域課題の解決をさらに加速させていきたいと考えています。

レオ・レオニ作の絵本『スイミー』のように、一人ひとりは小さくても、仲間たちが集まれば大きな力になる。そんなイメージで取り組んでいます。

(※記事内容は取材当時の情報に基づきます)


●デジタル庁では、デジタル機器やサービスに不慣れな方へのサポートに役立つデジタル情報をまとめたページ「教える人のためのデジタル情報ひろば」をご用意しています。
デジタル推進委員をはじめ、住民の方へご説明いただく際などにぜひご活用ください。

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