暮らしに溶け込むデジタル支援。北海道更別村のコミュニティナース×デジタル推進委員の取組
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北海道十勝地方に位置する人口約3,000人の更別村では、住民の暮らしに寄り添い心身の健康を支える「コミュニティナース」が「デジタル推進委員」を兼ねる取組を展開しています。日常の中で築いた信頼関係を土台に、スマートフォンの操作支援から健康相談まで、暮らしに溶け込んだデジタル支援を実現していることが特徴です。
デジタル推進委員とは、デジタル機器やサービスに不慣れな方の身近な相談相手として、デジタル社会の利便性を誰一人取り残されず享受できる環境を作っていくための取組です。これまでに5万9,383人の方々が任命されています。(2026年3月末)
更別村の先進的な取組について、更別村企画政策課(スーパービレッジ推進担当、デジタル推進委員)の八木俊宏上席主査と、コミュニティナースの今村智之さん(株式会社まめーず代表、デジタル推進委員)に話を聞きました。
デジタルで「孤立の円」を繋ぎ直し、「大きな円」をつくる

(インタビューに応じる八木上席主査)
――更別村では「更別村スーパービレッジ構想」というデジタルを活用した村づくりの中で、コミュニティナースやデジタル推進委員の活動が位置づけられていると伺いました。はじめに、この構想について教えてください。
八木:
「更別村スーパービレッジ構想」は、デジタルの力を使って住民の暮らしを豊かにしようという更別村独自の計画です。予約制の乗り合い交通や電力センサー等による見守りサービスなど、さまざまなサービスを村の中に実装する取組で、2022年6月に国のデジタル田園都市国家構想推進交付金TYPE3に採択されました。
この構想を作るとき、常にイメージしていたことが地域のつながりです。昔はみんなが一つの目標に向かって、つながる大きな円の中で暮らしていました。ところが現代、特にコロナ禍の真っただ中の時には、大きな円が一つ一つの「孤立した円」になってしまっていると感じました。
このままでは、困ったときに地域の助けを得られなくなってしまう。そこで、デジタルで円を繋ぎ直し、広げていこうというのが「更別村スーパービレッジ構想」の根っこにある考え方の1つです。
ただ、行政やソフトウェアメーカーは、システムやアプリを作れても、住民の方に届ける接点、いわゆるラストワンマイルを担うことが難しいのが実情です。たとえば「このアプリはどうやって使うの?」と困ったときに、教えてくれる人が必要です。そこで、広がった円の重なりを、デジタル推進委員を兼ねたコミュニティナースが結ぶことで、つながりが生まれていくのではないかと考えました。

(デジタル推進委員として活動する今村氏)
――コミュニティナースにデジタル推進委員も兼ねてもらうことになった経緯を教えてください。
八木:
この村にはもともと、「デジタルを使って何かしよう」という土壌があまりありませんでした。構想をきっかけにデジタルの波がやってくることが予想できたので、住民へのフォローアップは必ず必要になると考えていました。そのため、住民に近い立場であるコミュニティナースに、デジタル推進委員も担ってもらうアイディアが生まれました。
一方で、まずは日常の活動を通じて住民と信頼関係を築いていただくことを最優先に考えました。その信頼があれば、デジタルの相談も自然と寄せられるようになるだろうと考えていました。
今村:
「コミュニティナース」と聞くと、介護福祉の領域の人だと思われがちですが、病院の看護師とは異なり、看護師資格が必須ではありません。暮らしの中で住民と日常的に関わりながら、心身の変化に気づいて必要な支援につなげていく存在です。
また、デジタル推進委員を兼ねることで「デジタルの相談にも乗れる」となると、住民の方にとっては身近な"何でも屋"のような存在になれます。実際、スマホの相談がきっかけで、健康面の話につながることも多いです。
デジタル推進委員として任命されたことで、住民の方からも「デジタルのことも相談できる人」としても認識してもらいやすくなりました。コミュニティナースとデジタル推進委員、両方の役割を担うことで、相談の入り口が広がったと感じています。
身近な相談が、デジタル定着への第一歩に

(インタビューに応じる今村氏)
――コミュニティナースの活動について、体制や具体的な内容を教えてください。
今村:
現在は3名のコミュニティナースが活動しています。私自身はコミュニティナースの育成・派遣を手がけるCommunity Nurse Company株式会社(現株式会社CNC)を通じて、東京からこの村に来ました。最初の頃は自分たちのことを誰も知らない状態でしたが、「まずは知ってもらおう」と、高齢者の方がよく集まる村内の温浴施設に毎日通い、顔を覚えてもらうことから始めました。その後は独立し、株式会社まめーずを設立して現在に至ります。
八木:
当時は私と今村さんたちコミュニティナースの皆さんと毎週ミーティングをして、「次はここに顔を出してみたら」「この場所は人が集まるよ」と伝えていましたね。
今村:
活動を始めて4年目になりますが、八木さんをはじめとする村役場の協力もあって、少しずつ住民の方との距離が縮まってきました。現在は見守り訪問で一人暮らしの高齢者のお宅を回ったり、編み物教室やゲートボールといった地域の集まりに顔を出したり、『スマホ教室』を開いたりもしています。
――スマホ教室ですか。
今村:
「スマホ教室」といっても、先生がいるわけでも教材があるわけでもありません。みんなでスマホを持ち寄って、座談会のように雑談する場です。先日は90歳の方が「スマホデビューしたい」と立ち寄ってくださって、80歳の方が隣に座って文字入力の方法を丁寧に教えていました。
村では更別スーパービレッジ構想の一環で、住民向けにスマホやスマートウォッチを無料で貸し出しています。そのため、コミュニティナースに寄せられる相談の中でも、スマホに関するものは特に多いです。

(「デジタルどんぐりスタンプ」の画面)
―――スマートフォンに関する相談では、具体的にどのような内容がありますか。
今村:
最近は「デジタルどんぐりスタンプ」の使い方が一番多いですね。村内の商店会が運営していた紙のスタンプカードがデジタル化されたもので、スマホにアプリをダウンロードして利用します。
八木:
これまでスマホを使っていなかった方も、日々の買い物で活用できるとあって「使えるようになりたい」という声が多く聞かれます。紙のスタンプの時はデジタルサービスを使うためのID登録者が500〜600人ほどでしたが、デジタルスタンプになって現在は1,500人を超えました。
今村:
それ以外にも、「カメラの使い方がわからない」「ネットがつながらない」といった基本的な操作に関する相談も多いです。気づかないうちに機内モードがオンになっていたり、カメラのアクセス許可がオフになっていたりするだけのケースも少なくありません。
更別村から最寄りの携帯ショップまでは車で30〜40分かかるので、困ったことがあっても行きづらいのが実情です。その点、同じ村内で身近に聞ける人がいると、すぐに困りごとが解決できます。
身近に相談できる人がいることで困りごとがすぐに解決でき、それがデジタルへの親しみにつながっていく。スマホの基本操作に慣れることが、マイナンバーカードのスマートフォンへの搭載やマイナポータルの活用など、より便利な暮らしへの入り口にもなると感じています。
――相談対応で心がけていることはありますか。
今村:
住民の方と同じ目線で「たしかに難しいですね」「じゃあ一緒に調べてみましょう」と話すなど、「教えてあげよう」というスタンスではなく「一緒に解決する」ことを大切にしています。
八木:
チラシやパンフレットを通じてスマホやスマートウォッチの操作を案内することはいくらでもできます。しかし、実際に「やってみる」ことが、実は一番高いハードルだったりもします。今村さんたちコミュニティナースは、そのハードルを一緒に越えてくれるパートナーのような存在です。
日常的な会話の延長で悩みを伺うから、一方的ではないアドバイスができる。それが「この人となら安心して話せる」「この人に相談したい」という信頼につながっていくのだと思います。
今村:
信頼関係ができてくると、住民の方から「こういうことをやってみたい」という声もいただけるようになります。
たとえば、「旅行に行きたいけれど、体力的に遠出が難しくなった」という声を聞くことが増えていました。そこで始めたのが、ビデオ通話で遠方の風景をリアルタイムに届ける「バーチャルトラベルツアー」です。
まずは試しに島根県と更別村をつないでお花見会を開きました。現地のCNC社員がガイド役となり、桜の様子を中継してもらいました。その様子を島根のお土産を食べながら、20人以上で集まって鑑賞しました。この取組が大変好評で、その後も紅葉の中継やJICA(国際協力機構)と連携した海外の風景を届ける回を実施しています。
郵便局に「まちの保健室」 広がるつながりの輪

(更別村郵便局に「まちの保健室」を開設している)
――こうした接点を事務所や温浴施設だけでなく、日常の動線の中にも広げる取組もされているそうですね。
八木:
2024年11月に更別村、コミュニティナース事業者、日本郵便北海道支社の三者で連携協定を結び、同年12月から北海道内では初めて郵便局の中に「まちの保健室」を開設しました。
郵便局は老若男女関係なく誰もが日常的に立ち寄る場所なので、その特性を生かしたコミュニティをつくれればと考えました。
今村:
現在は村内に2カ所ある郵便局で、それぞれ月に1回ずつ保健室を開催しています。コーヒーを出しながら世間話をしたり、スマホの相談を受けたりする場です。1回来た方が、次は友人や近所の方を誘って参加してくださることも多くて、少しずつ参加者が増えています。
郵便局に立ち寄った方が、「何をやっているんだろう?」と足を止めてくださることもあります。そんな偶然の出会いをきっかけに、それまでコミュニティナースの存在を知らなかった方が参加してくださるようになった例も多くあります。
――「まちの保健室」をきっかけに、住民の方に変化はありましたか。
今村:
誰かが楽しそうに活躍していると、「自分も何かやってみたい」と思うようです。実際に、手先が器用な方がパズルやゲームを手作りして持ってきてくださったり、本が好きな方が朗読イベントを開催してくださったり。それぞれの得意分野を活かして関わってくださる方が多いんです。
こうした方たちを「村民コミュニティナース」と呼び、村民コミュニティナースとコミュニティナースがグループチャットで地域の気になる情報を共有しあっています。

(村民が着用しているスマートウォッチ。⼼拍・⾎圧・⾎中酸素などの⽣体情報、睡眠時間や歩数等の⾏動情報を⽇常的に計測することで、⾃⾝の健康状態をスマホで閲覧することが可能です。)
――グループチャットではどのようなやり取りをされていますか。
今村:
まちの保健室やイベントの情報、コミュニティナースの活動報告、村で起きたちょっとした出来事を共有しています。
たとえば「まちの保健室にご友人を連れてきてくれました!」「おいしいコーヒーをみんなに振る舞ってくれました」など、日常のちょっとした温かい出来事を紹介しています。また、「最近あの方を見かけないけどお元気かな」といった、地域の気になる情報や見守りに関する情報を交換することもあります。
――村民コミュニティナースに気軽に参加してもらうために、工夫されていることはありますか。
今村:
「ボランティアをやってください」とお願いするのではなく、日々すでにやっていることの延長だと感じてもらえるようにしています。
今年(2026年)の初め、村民コミュニティナースの方たちと一緒に「コミュニティナースってどういうことだろう」と考える勉強会を開きました。そこで、「近所の人を気にかけて声をかける」「困っている人を誰かに繋ぐ」といった行動、それ自体がコミュニティナースの活動なのだ、ということをお伝えしました。
普段からやっていることが社会にとって大切な活動につながっていると実感してもらえると、「自分もできそうだ」という気持ちが生まれるようです。
「自分たちでつながる村」を目指して

――住民一人ひとりの得意を活かした温かいコミュニティが育まれていますね。住民同士のつながりとデジタル支援が一体となった取組も含め、今後の展望をお聞かせください。
八木:
初期の活動は高齢者を中心に展開してきました。高齢者の方々に寄り添うことを優先してきたことは、デジタルデバイド対策として重要な取組だったと考えています。現在は、次のステップとして多世代への広がりを目指しています。
たとえば、村内の高校生向けに、更別村スーパービレッジ構想をPRする動画を作成していただく企画を開催しました。作成には、村が無償で貸与しているiPhoneを活用しました。高校生が村のサービスを体験しながら発信者になる取組です。
今村:
高校生が動画を作ることで、自分たちの暮らす村のサービスを知るきっかけになります。そしてその動画が大人の住民にも届いていく。世代を超えてデジタルが広がっていく流れを、着実に作っていきたいと思っています。
将来的な理想は、村民コミュニティナースの方たちのように、地域の人同士でつながりを支え合える状態です。そのためにも、村民コミュニティナースの輪をさらに広げていきたいと思っています。
――更別村には、取組を参考にしようと他の自治体から視察に訪れる方も多いと伺っています。同様の取組を検討している自治体の方へメッセージをお願いします。
八木:
今村さんを含めたコミュニティナースの活動を見ていて感じるのは、「教えること」が目的になっていないということです。住民の話を聞く中で、さりげなく「それならこうすると便利ですよ」とアドバイスをする。そうした姿勢が、住民からの信頼につながっているのだと思います。
人口約3,000人の更別村は行政と住民の距離が近いので、こうした関係を築きやすい環境ではあります。実際、役場にも「スタンプの登録をしてほしい」と住民の方が直接訪ねてくることがあります。
都市部では区役所に気軽に立ち寄るのは難しいかもしれませんが、小さな自治体だからこそできることもあると感じています。ただ、「まず信頼関係を作り、その延長でデジタルを届ける」という順番は、規模に関わらず大切なことだと思います。
今村:
「デジタルを広めること」自体を目的にすると、思うようにデジタル化が広がらないのではないかと思います。
私たちはスマホの普及そのものを目的にはしていませんでした。活動の中でデジタルに触れていただく場面を自然に作ること。つまり、普及を「目的」ではなく「手段」として捉えていました。
そうすることで、気づいたら自然にデジタルを使っているようになります。これまでの経験上、そのほうが結果的にデジタルの定着につながっているのではないかと思います。
●デジタル庁では、デジタル機器やサービスに不慣れな方へのサポートに役立つデジタル情報をまとめたページ「教える人のためのデジタル情報ひろば」をご用意しています。
デジタル推進委員をはじめ、住民の方へご説明いただく際などにぜひご活用ください。
- 教える人のためのデジタル情報ひろば|デジタル庁(※外部リンク)
●デジタル庁ニュースでは、各地で活動するデジタル推進委員の取組を紹介しています。過去のコンテンツは以下のリンクをご覧ください。
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